当センターは、膵臓がん・胆道がんを中心とした悪性疾患や、胆嚢結石 (胆石) や急性胆嚢炎・胆管炎などの良性疾患に対して、院内関係部署および地域医療機関との連携を図りながら、先進的医療を安全かつ統合的に提供することを目的として設立されました。 “病気を診(み)るのではなく、人を診(み)る” をスローガンにしており、胆道・膵臓の病気に対する直接的な治療だけでなく、糖尿病管理や手術前後の運動療法・栄養管理などの全身サポートも行っています。
膵臓がんや、胆道がん (胆管がん・胆のうがん・十二指腸乳頭部がん) は診断・治療が大変難しいと言われています。進行が速い上に、一般的な健康診断では発見できないことも多いので、発見時にはすでに高度進行状態となってしまいます。また膵臓や胆道の手術は消化器外科領域の手術の中でも難しいとされており、この分野における高い専門性と熟練が必要です。当センターでは消化器内科と放射線診断・IVR 科が中心となって速やかに病気を診断し、消化器内科・消化器外科・腫瘍内科・放射線治療科で総合的に治療方針を検討します。胆道がんや膵臓がんに対する実際の診療は、診断から始まり、手術と化学療法 (抗がん剤) を一連の治療で行っていくことが多いので消化器内科、消化器外科、腫瘍内科が密な連携を行っています。また、手術や化学療法だけでなく、放射線治療、血管内治療、緩和医療にも対応します。病気や病状によっては新規の治療や新規薬剤の治験なども受けて頂ける可能性があります。
膵臓がんにおいては、糖尿病や慢性膵炎、膵癌の家族歴などが膵臓がんにかかりやすい危険因子と言われており、特にそういった危険因子のある方に対して定期検査を行うことで膵臓がんを早期発見する近隣医療施設との連携(膵癌早期発見コンソーシアム)も行っています。
胆石、総胆管結石や膵炎などの良性疾患に対しても、消化器内科と消化器外科が中心となって、安全で速やかな診断・治療を行います。胆石は急性胆嚢炎、総胆管結石、急性胆管炎、急性膵炎の原因になりますが、特に急性胆管炎や急性膵炎は短時間のうちに重症化することがあり、早期に診断して速やかに治療を行わなければ重篤な状態にもなり得ます。当センターでは、このような良性疾患に対してもしっかりとした質の高い医療を行います。
センター長
小林 慎二郎(教授)
センター長
消化器・一般外科
小林慎二郎
副センター長
消化器内科
中原一有
副センター長
腫瘍内科
梅本久美子
胆道と膵臓の全ての病気を扱います。下記は、その代表的な病気です。
膵臓がんは膵臓にできるがんで、 50~70歳、特に高齢の男性に多いがんです。膵臓は、胃の後ろにある、長さ20cmほどの細長い臓器です(図)。右端のふくらんだ部分を膵頭部といい、十二指腸に囲まれています。左側の部分は膵尾部といい、脾臓に接しています。膵臓の真ん中は膵体部といいます。膵臓の役割は血糖を下げるインスリンというホルモンを作ることと、食べ物を消化する消化液の膵液を作ることです。膵臓の中には、膵管という細い管が走っていて、膵液が流れています。
膵臓がんは発生しても症状が出にくく、早期の発見は簡単ではありません。進行してくると、腹痛、食欲不振、腹部膨満感(おなかが張る感じ)、腰や背中の痛みなどの症状が出ます。また、膵頭部にできたがんでは黄疸が出ることもあります。黄疸は、胆管ががんによって狭窄 (狭くなること) して、胆汁の流れが悪くなることで起こります。皮膚や白目が黄色くなったり、尿の色が茶色っぽく濃くなったりするほか、皮膚にかゆみが出ることもあります。その他の症状として急な糖尿病の発症や悪化がみられることがあり、膵臓がんを見つけるきっかけになることがあります。ただし、これらの症状は膵臓がん以外でも発生することがありますし、膵臓がんであっても発生しないことがあります。膵臓がんを早期発見するには定期的な検査が必要です。
膵臓がんの治療には、手術、化学療法 (抗がん剤)、放射線治療があります。がんが切除できる場合でも、手術だけではなく、化学療法、放射線治療を組み合わせた治療(集学的治療)を行うことが多いです。切除できない場合は、主に化学療法や化学療法と放射線治療を組み合わせた治療を行います。がんの進行の状態や患者様の全身状態によっては、緩和ケアのみを行う場合があります。
膵臓には膵臓がん以外にも膵管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、充実性偽乳頭状腫瘍(SPN)、神経内分泌腫瘍などの腫瘍が発生します。腫瘍の種類や大きさなどによっては、経過観察できる場合もありますし、手術の適応になる場合もあります。それぞれの腫瘍に特徴的な症状がでることはほとんどないために、診断を確定させるためには超音波検査、CT検査、MRI検査だけでなく、超音波内視鏡検査やERCP (内視鏡的逆行性膵胆管造影検査) などが必要になることが多いです。
膵管内乳頭状粘液性腫瘍 (IPMN) は、のうほう性膵腫瘍のひとつです。のうほう性腫瘍とは、腫瘍から分泌された液体がたまって袋のような形態の腫瘍です。IPMNは、良性 (経過観察可能な状態) から悪性 (治療が必要な状態 )へと変化していく腫瘍です。よって、良性なのか、それとも既に悪性に変化しているのかを見極めることが重要になります。悪性化していても“浸潤”のないうちに手術すれば再発することは少ないので癌になる前の段階で診断・治療をする必要があります。
粘液性嚢胞腫瘍 (MCN) はIPMNに次いで代表的なのうほう性腫瘍です。40~50歳代女性の膵尾部に発生多することが多いのが特徴です。MCNは悪性の可能性がありますので、MCNと診断された場合には手術を受けることをお勧めいたします。
充実性偽乳頭状腫瘍 (SPN) は比較的若年の女性に多い比較的まれな腫瘍です。悪性度はそれほど高くありませんが、10%程度の悪性例があると言われており、SPNと診断された場合には外科手術をお勧めいたします。
神経内分泌腫瘍 (NEN) はインスリンやグルカゴン(血糖を調節するホルモン)などを分泌する細胞から発生する比較的まれな腫瘍ですが、近年増加傾向です。過剰分泌されるホルモンによる症状(高血糖、低血糖、消化性潰瘍、下痢など)があるものを機能性、ないものを非機能性と呼びます。進行は比較的穏やかですが、急激に進行するものもあります。1cm以下の小さなうちは経過観察できる場合もありますが、基本的には外科的切除の対象になります。リンパ節や肝臓に転移などを伴っている場合には、外科的切除、ホルモン剤・抗がん剤などを組み合わせる集学的治療を行うこともあります。
慢性膵炎は、膵臓に繰り返し炎症が起こることにより、膵臓が萎縮して本来の膵臓の機能が低下してしまう病気です。慢性膵炎では、膵液の通り道である膵管の中に結石ができたり、膵管が細くなって、膵液の流れが悪くなる場合があります。また、膵臓の中をとおる胆管が細くなって、胆汁の流れが悪くなる場合もあります。慢性膵炎の原因は、飲酒によるものが多く、その他にも脂質異常症や原因の分からないものもあります。
慢性膵炎の症状は、みぞおちの辺りや背中の痛みがでることが多く、食欲不振や悪心、嘔吐、腹部膨満などの症状がでる場合もあります。また、膵臓の本来の働きである消化吸収や血糖を下げるといった働きが低下するため、下痢 (脂肪便) や糖尿病をきたしてしまうこともあります。
慢性膵炎の診断は、血液検査、超音波検査、CT検査などで行います。最近では、超音波内視鏡という先端に超音波装置のついた特殊な内視鏡を用いて、胃や十二指腸からすぐそばの膵臓を観察することで、症状のでる前の早期の慢性膵炎の診断も可能となっており、当院でも積極的に行っております。
慢性膵炎の治療は、飲酒が原因の場合には禁酒が大原則です。痛みやお腹の症状に対してはお薬の内服による治療がメインにますが、膵液や胆汁の流れが悪い場合には、流れ道を確保するために、ステントを入れる内視鏡を用いた治療が必要となる場合があります。膵管の結石は、その内視鏡を用いた治療により結石を取り除くこともできます。また、糖尿病をきたしている場合には、代謝・内分泌内科と連携をとり、糖尿病の治療もおこないます。
慢性膵炎では、膵癌が発生する危険があるため、定期的な経過観察が必要となります。
急性膵炎は、膵臓の自己消化により非常に強い炎症をひきおこし、重症化すると命にかかわる病気です。急性膵炎の原因は、飲酒によるものが最も多く、その他には胆石や高脂血症、原因不明などがあります。
急性膵炎の症状は、特に脂肪分の多い食後や飲酒後に、非常に強いみぞおちや背中の痛みがおこります。胆石が原因の場合には、胆汁の流れが悪くなり、皮膚が黄色くなったり尿の色が褐色となる黄疸の症状がでることもあります。
急性膵炎の診断は、血液検査やCT検査などで行います。軽症では炎症により膵臓が腫れるだけのものから、膵臓の周囲まで炎症が及ぶもの、膵臓やその周囲が壊死してしまう重症のものまでさまざまです。
急性膵炎の治療は、大量の点滴や薬剤による治療をおこないますが、重症になると高度な全身管理による救命医療が必要となります。胆石が原因の場合には、内視鏡を用いて結石を取り除きます。また、膵臓や周囲に壊死が及んだ場合には、壊死を取り除くネクロゼクトミーという高度な処置が必要となる場合もあります。当院では、体の負担の少ない内視鏡を用いたネクロゼクトミーを積極的に行っております。
膵壊死に対する内視鏡的ネクロゼクトミー
胆道がんは、胆道(肝臓で作られる消化液である胆汁の通り道)にできるがんの総称で、胆管がん・胆のうがん・十二指腸乳頭部がんに分類されます。胆管は、肝臓の中の細い肝内胆管として始まり、それらが合流しながら次第に太くなって、最終的に肝門部で1本になります。さらに胆嚢から出る細い胆嚢管という管と合流して総胆管となり、膵臓の中を通って、膵管とともに十二指腸乳頭部で十二指腸につながります(図)。
胆管がんは、がんが発生した場所が肝臓の中か外かによって肝内胆管がんと肝外胆管がんに分類されます。さらに、肝外胆管がんは、胆管のどの部分に発生したかによって肝門部領域胆管がんと遠位胆管がんに分類されます。肝内胆管がんは肝臓に発生するため、厳密には胆道がんではなく、原発性肝がんに分類されます。肝外胆管がんや十二指腸乳頭部がんは、黄疸をきっかけに発見されることがほとんどです。黄疸のほかに、腹痛、発熱、全身のだるさ、食欲不振、体重減少などの症状が出ることもありますが、がんとしての特徴的なものは無いので、膵臓がんと同様に早期での発見は難しいのが現状です。肝内胆管がんや胆のうがんでは、さらに症状が出にくいことが知られています。胆道自体が肝臓、重要な太い血管、膵臓に囲まれているために、進行すると容易にそれらの臓器・組織に浸潤してしまいます。少しでも気になる症状がある場合には、早めに医療機関の受診をお勧めします。
胆道がんの治療は、手術と化学療法 (抗がん剤) が中心になります。切除できる場合でも、今後は膵臓がんと同様に手術と化学療法を組み合わせた集学的治療が主流になるかもしれません。切除できない場合は、主に化学療法を行います。がんの進行の状態や患者様の全身状態によっては、緩和ケアのみを行う場合があります。
急性胆管炎とは、結石や腫瘍などにより胆汁の流れが悪くなり、停留した胆汁に細菌が感染して胆管に炎症をおこす病気です。短期間に重症化しやすく、重篤な状態になることもあるため、早急な治療が必要となります。
急性胆管炎の症状は、発熱、みぞおちの痛み、黄疸(目や皮膚の黄染)などがおこります。重症になると血圧低下や意識障害を伴うこともあります。
急性胆管炎の治療は、悪くなった胆汁の流れを再開通させることが最も重要になります。近年では、患者さんへの負担の少ない内視鏡を用いた治療が主流になっており、内視鏡を用いて、流れの悪くなった胆管にステントなどの管を通し、その管を通して胆汁が流れるようにします。また、胆管内の結石が原因で胆汁の流れが悪くなっている場合には、内視鏡を用いて結石の除去を行うこともあります(内視鏡的結石除去術)。以前に胃の手術をされている患者さんなどでは、内視鏡治療は難しいとされていますが、最近ではバルーン内視鏡や超音波内視鏡などの特殊な内視鏡を用いた治療が可能になってきています。
総胆管結石に対する内視鏡的結石除去術
急性胆嚢(胆のう)炎とは、多くの場合は胆のう結石が原因となり、胆嚢に炎症をおこす病気です。原因の90%以上は、胆のう結石による胆のうからの胆汁の流出障害によりおこります。その他には、腫瘍や原因不明のものもあります。症状は、特に脂分の多い食事を摂取したあとに、右上腹部の痛み、発熱などがおこります。 急性胆嚢炎の治療は、原則、手術で胆嚢を摘出します。近年では、大部分の患者さんが腹腔鏡を用いた小さな傷で短期間での入院で手術が行えます。高齢の患者さんや持病をお持ちの患者さんなどで手術が困難な場合には、胆嚢の中の感染した胆汁を抜くドレナージという治療を行います。一般に行われているドレナージ治療では、管が体の外に出てしまいますが、最近では内視鏡を用いて、体外に管が出ない患者さんの日常生活に支障の少ないドレナージの方法 (内視鏡的胆道ステント留置術) も可能になってきています。
急性胆嚢炎に対する内視鏡的胆嚢ステント留置術
コンソーシアム(Consortium)とは、2つ以上の個人や団体などで構成され、共同で何らかの目的に沿った活動を行ったり、共通の目標に向かって結成される組織を意味する言葉です。当センターでは膵臓がんの根治(完全に治ること)を目的に、膵臓がんの早期発見に努めています。
難治性がんのひとつである膵臓がんでも、早期発見し、適切な治療を行えれば、根治できることも少なくありません。10mm未満の大きさで発見された膵臓がんの5年生存率(5年間生存していた方の割合)は80.4%と報告されています(Egawa, et al. Pancreas: 2012)。膵臓がんを効率よく早期発見するためには、膵臓がんの危険因子(リスク因子)をもつ方々に定期的な検査を受けていただくことが必要です。下記(図)の条件がある60歳以上の方々は、半年に1度の血液検査(CA19-9、アミラーゼ、血糖およびHbA1c)と、腹部超音波検査を受けていただくことをお勧めします。
特に糖尿病と膵臓がんは密接に関連しています。糖尿病患者様は糖尿病のない方と比べ、膵臓がんになるリスクが1.94倍であるといわれています。さらに糖尿病患者様のうち、糖尿病の家族歴がなく、高齢(65歳以上)、または体重減少(2.0kg以上)、または非肥満(BMI <25kg/m2)のいずれかが当てはまる場合、膵臓がんを伴っている可能性が高いと報告されています(Lee JH et al. J Clin Gastroenterol: 2012)。特に,糖尿病の新規発症や急激な悪化時に膵臓がんが発見されることがあります。一方で、糖尿病を契機に診断された膵臓がん患者様は症状を契機に診断された方より生存期間が2倍以上に延長していたことも報告されています(Takikawa T et al. Tohoku Jexp. Med 2020)。
以上から糖尿病の新規発症の方、意図しない急激な悪化を認めた方、糖尿病の家族歴がなく、高齢、体重減少を伴う、非肥満の方など、ご心配な方は当センターにご相談ください。
近隣の医療施設におかかりの方は、当センターに紹介状をいただければ速やかに検査をいたします。糖尿病患者様は代謝・内分泌内科が,それ以外の方は消化器・一般外科、消化器・肝臓内科が対応致します。
超音波やCTなどの画像検査設備がないご施設や、わずかでも膵臓がんを疑う所見がある場合には、患者様をご紹介ください。速やかに検査を施行し、ご返信いたします。貴施設への定期的通院を続けながら、半年に1度の検査のご希望も承ります。
膵癌のリスク因子(膵癌診療ガイドラインより一部抜粋)
胆道がんや膵臓がんの手術治療、胆石症など良性疾患の外科治療を担当します。
肝内胆管がんでは肝切除、胆嚢がんや肝門部領域胆管がんでは腫瘍の場所・広がりと、肝臓の予備能力に応じて肝臓の切除を伴う胆道切除が必要になります。膵臓がんではがんの発生部位に応じて膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、場合によっては膵全摘術が必要になります。
膵頭部癌、IPMN、遠位胆管癌、十二指腸乳頭部癌などの膵頭十二指腸領域の疾患に対して適応となる膵頭十二指腸切除(以下、PD)は侵襲の大きな術式であり、一般的には術後入院期間は3-6週間、術後合併症の発生率は40-60%と言われています。当院では手術手技の工夫や周術期管理の徹底によって全国平均よりも良好な成績を長期間維持できています。PDにおける術後合併症の中で、特に膵液瘻は患者様と外科医を苦しめる合併症です。膵液瘻は腹腔内出血の原因となり、致命的になり得る合併症ですが、一般的には10-20%と高い発生率です。当院では膵断端と空腸の吻合(膵消化管吻合)において、Blumgart吻合を改良したCOMpressed Pancreatic Stump(COMPAS)吻合を開発し、重篤な膵液瘻の発生を3.2%に抑えることができています(Kobayashi S, Otsubo T, et al. Journal of Gastrointestinal Surgery 2021;25:1082–1086.)。
また、ERASⓇの概念を用いた周術期管理を徹底し、手術手技における工夫を行うことで術後の入院期間中央値は17日となっています(Kobayashi S, Otsubo T, et al. Journal of Hepato-Biliary-Pancreatic Sciences, 2018;25:231-239.)。また、当院では過不足のない郭清手術手技と、腫瘍内科による術後の補助化学療法 (抗がん剤) によって膵頭部癌の術後5年生存率が40.3%になっています(Kobayashi S, Otsubo T, et al. World J Surg 2021;45:857–864.)。
センター長 消化器・一般外科 小林慎二郎
胆道がんや膵臓がんなどの悪性腫瘍や、胆石症や膵のう胞性腫瘍などの良性疾患に対する診断や治療、特に内視鏡を用いた専門性の高い治療を担当します。
近年、胆道病や膵臓病に対する内視鏡を用いた診断や治療の進歩は目覚ましく、当科でも積極的に最先端の医療を導入し、高い技術を持った胆道病や膵臓病を専門に行うスペシャリストのチームが患者さんを担当させて頂きます。
診断においては、超音波内視鏡を用いた画像診断や組織診断が可能となっており、当科では組織診断を行う際には、病理技師も検査に同席し、適切な検査が行えたかをその場で評価するrapid on-site cytologic evaluation (ROSE) というシステムを導入しています。このシステムでは、1 回の検査でなるべく正確な診断を行い、患者さんの負担が減るよう心掛けています。
内視鏡治療においては、患者さんにとって最適な治療を行うことはもちろん、最先端の治療を導入することで、なるべく患者さんの生活の質を落とさず、侵襲の少ない治療法をご提案させて頂いております。具体的には、胃の手術後の患者さんに対する内視鏡治療は困難な場合が多く、体外に管がでてしまう治療となることが多いですが、当科では特殊なバルーン内視鏡を用い、胃の手術後の患者さんでも高確率に体外に管がでない治療が可能となっています。
また、高齢や持病をお持ちで手術が難しい急性胆のう炎の患者さんに対しては、当院で独自に開発した胆嚢専用ステントを用いて、体外に管の出ない侵襲の少ない治療も行っております。その他にも、急性膵炎後の膵壊死に対するネクロゼクトミーにおいては、日本では特別な 研修を受けた医師のみが使用できるステントを用いた低侵襲な内視鏡治療が可能です。
日々、最良の医療を探求し、患者さんお一人お一人に合わせた最適な診断や治療を患者さんと相談させて頂きながら一緒に行っていきたいと考えております。
副センター長 消化器内科 中原一有
胆道がんと膵臓がんに対する薬物療法を担当します。当科では、抗がん剤治療(化学療法)のスペシャリストである腫瘍内科医が、患者さんに適した治療を行います。具体的には、切除できる場合に行う術前または術後の抗がん剤治療、切除できない場合に行う抗がん剤治療、または必要に応じて化学放射線療法を行います。胆道がんと膵がんにおいて、切除できる場合には、再発を予防する目的で術前または術後に補助的な抗がん剤治療を行うことがあります。また、切除できない場合には、手術や放射線単独療法は期待できないため、適切な抗がん剤を行うことにより延命を目指します。
世の中には治療に関する様々な情報が飛び交っており、治療選択に迷われることもあるかと思います。当科では、胆道がんと膵臓がんに対する「標準治療」をまず提案します。「標準治療」とは、過去から現在までに世界中で行われてきた臨床研究の結果、現時点で最善と考えられている治療のことです。しかし、最善の治療とは、科学的な根拠に基づく治療方針はもちろんの事、診療経験に基づいた個別の臨床判断や、患者さん自身の意向を考慮したものであるべきと考えています。患者さんにとってベストな治療を選択できるように、または、患者さんの生活をできるだけ維持しながら治療が続けられるように、我々は当センターの他の診療科とチームを組み、連携して知恵を絞ります。診察時には、ご自身の病気や症状に対する心配だけでなく、療養に関する希望についてもよくお聞かせください。
副センター長 腫瘍内科 梅本久美子
放射線・IVR科では臨床各科の依頼で撮影されたX線レントゲン画像やCT、MRI 画像の解析を行い、病気の有無やどのような病気なのか、病気の広がり等の診断を行っています。また、2022年度に開院予定の新病院ではPET-CTの導入が予定されています。IVRは画像で体の中を見ながらカテーテル等の器具を用いて行う低侵襲治療です。胆道・膵臓領域では中心静脈カテーテル挿入、中心静脈リザーバー留置、経皮的ドレナージ術等を行い、がん治療や緩和医療の一翼を担っています。患者様に直接お会いする機会は少ないですが、臨床各科の医師をはじめとした他職種と定期的にカンファレンスを行い診断・治療にあたっています。
放射線・IVR科 森本毅
胆道がん、膵臓がんに対する放射線治療を担当します。膵臓がんでは、肝臓などの他の臓器への転移はないものの、がんが膵臓周囲の大きな血管を巻き込んでいる場合には化学療法 (抗がん剤) と放射線治療を併用して行う化学放射線療法を行うことがあります。胆道がんではがんが手術だけでは取り切れないような場合には、手術後の化学放射線療法を行うことがあります。
手術治療が困難な場合で、お腹や背中に痛みなどの症状がある場合には、症状の緩和を目的に放射線治療または化学放射線療法を行うことがあります。
また、脳にがんの転移が発生した場合、少数個であれば、がんにピンポイントに放射線を当てる定位放射線治療を行います。転移巣にピンポイントに放射線を当てるので、放射線治療によって起こり得る認知症のリスクを下げることができます。多数個であれば、脳全体に放射線を当てる全脳照射を行うことが多いです。これにより、脳転移によって起こる脳神経症状や頭蓋内圧亢進症状である頭痛・吐き気などを改善し、生活を維持ないし改善することができます。
がんが骨に転移すると痛みを引き起こすことがありますが、痛みを伴う骨転移に対して放射線治療をすることで、短い治療期間で、痛みの改善や消失を期待できます。骨転移によるQuality of Life (QOL) の低下を防ぐという点でも意義の大きい治療と言えます。
放射線治療科 小林真梨子
病理診断科は術前・術後診断を担当します。胆道疾患では胆汁細胞診と胆道粘膜生検に対し、良悪性の判定を行い、膵疾患では膵液細胞診や穿刺吸引検体の細胞診および組織診断を行います。膵腫瘍に対する穿刺吸引検体の採取時には、rapid on-site cytologic evaluation (ROSE) を導入し、検査精度の向上に努めています。
病理診断科 小池淳樹
術前・術後、化学療法中の血糖管理、糖尿病患者様における胆道・膵臓病のスクリーニング,神経内分泌腫瘍の診断、内科治療を担当します。
糖尿病と膵臓病、特に膵臓がんは密接に関連しています。膵臓がんの60~81%に糖尿病が合併するといわれ、糖尿病の方は糖尿病のない方と比べて膵臓がんになるリスクが1.94 倍であるといわれています。また、糖尿病の方の最も多い死因は悪性新生物 (がん) であり,死因の38.3%を占めると報告されています。中でも膵臓がんは死因の5.7%を占め、肺がん、肝がんに次いで、がんの中で3 番目に多い死因です。よって、糖尿病の方には膵臓病、特に膵臓がんが隠れていないかを常に意識しながら診療にあたっております。
胆道がん・膵臓がんに対する外科治療は比較的大きな手術になります。手術の時に適切な血糖管理がされていないと、術後の感染症や傷の治癒の遅れのリスクが上がります。また、化学療法 (抗がん剤) の一部には吐き気止めとして、ステロイドを併用することがあり、それにより著しく血糖が上昇することがあります。さらに、化学療法による嘔気や倦怠感から食事の摂取が難しい時には細やかな薬の調整が必要です。
治療のために膵臓を切除した場合、血糖管理が悪化することがあります。特に膵臓を全部摘出した場合、インスリンを患者さん自身で皮下注射する治療が必須であり、専門的な管理が必要になります。当科は術前から術後,、そして終末期まで、状況に合わせたベストな血糖管理を患者様と一緒に目指します。
また、神経内分泌腫瘍 (NEN) の診断、内科治療も当科の専門分野です。NEN は膵臓や消化管・肺等の内分泌細胞に由来する腫瘍で、10 万人に5 人の希少ながんです。特に内分泌細胞からホルモンが過剰に分泌され、それによりさまざまな症状(高血糖、低血糖、消化性潰瘍、下痢など)を認めている場合、専門的な対応が必要です。時には遺伝性疾患を疑う場合もあります。当科はNEN に対する最適な医療を提供するための重要な役割の一端を担っています。
代謝・内分泌内科 中村祐太
「サルコペニア」「フレイル」といった言葉をご存知でしょうか。細かい違いはあるものの、どちらも筋肉量が減少し身体機能が低下した状態を指します。病気になったり歳をとったりするとどうしても筋肉量は減りがちです。筋肉量が多い人の方が手術合併症も少なく、化学療法も続けやすいと言われておりますので、リハビリテーション科では患者様の体調や検査所見に応じた最適な運動のタイプや量を設定し、患者様のサポートをさせていただいております。
リハビリテーション科 佐々木信幸
管理栄養士は患者様の栄養状態にあわせた栄養管理を行っていきます。手術を受けられる患者様においては、退院前に術後の状態にあわせた食事のとり方について、化学療法を受けられる患者様においては、適切な栄養補給方法および副作用時の対処方法など、医師の指示のもと栄養食事指導を行います。栄養、食事について気になることがありましたら、担当医師、管理栄養士にご相談ください。
薬剤師は患者様に安心して治療を受けていただけるよう、薬学的観点からサポートを行っていきます。周術期においてはアレルギー歴や副作用歴などの基本情報や服薬状況の確認を行います。化学療法を受けられる方には、お薬の内容や治療スケジュール、副作用の予防や対応方法などの説明を行います。お薬について気になることがありましたら遠慮なくご相談ください。
外科レジデント、初期臨床研修医を対象としたハンズオンセミナーを開催しました。 開催の様子はこちら
8月23日胆膵疾患センターで行っている病理検討会が開催されました。 開催の様子はこちら
それぞれの病気の診断や治療は、長い期間をかけて進歩・発展してきて現在の方法になっています。また、より効果的で安全な治療を患者さんにお届けするためには、これからも医療の進歩・発展は重要なことです。このような診断や治療の方法の進歩・発展のためには多くの研究が必要であり、これを「臨床研究」と言います。臨床研究は患者さんを始めとした多くの方々のご理解とご協力によって成り立つものです。臨床研究にはいろいろな種類があり、すべての臨床研究は本学生命倫理委員会の承認の上、学長の許可を得て行います。
「後ろ向き観察研究」という研究は、今のあなたの病気の状態からみた標準的な治療を行い、その治療前、治療中あるいは治療後のあなたの身体所見や検査結果などをデータとして集計し、分析することによって病気の原因の解明やよりよい治療方法の開発に役立てようとするものです。対象となる患者さんに新たな検査や費用のご負担をお願いするものではありません。また、患者様個人が特定されるような情報は厳重に保護され、外部に出されることはありません。個人の特定ができない条件で検査データ等を閲覧し統計解析します。また、あなたのご協力によって得られた研究の成果は提供者本人やその家族の氏名などが明らかにならないようにしたうえで、学会や学術雑誌及びデータベース上等で発表されることがあります。一度同意をしていただいた後、同意を撤回することも自由です。但し、学会や学術論文で公表されたデータの修正・削除はできません。
問い合わせ先 | 聖マリアンナ医科大学 消化器・一般外科 |
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住所 | 〒216-8511 神奈川県川崎市宮前区菅生2-16-1 |
電話番号 | 044-977-8111(代表) |
2023年6月 |
第64回日本臨床細胞学会春期大会総会 |
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2023年11月 |
第62回日本臨床細胞学会秋期大会 |
2023年11月 |
第85回日本臨床外科学会総会のパネルディスカッションにて消化器・一般外科 小林慎二郎先生が、シンポジウムにて梅澤早織先生が、一般演題にて井田圭亮先生、西澤一先生が発表しました。 |
2023年11月 |
第31回日本消化器関連学会週間(JDDW)にて消化器・一般外科 小林慎二郎先生が発表しました。 |
2023年10月 |
第27回日本外科病理学会にて、消化器・一般外科 増田哲之先生、柴田真知先生が発表しました。 |
2023年9月 |
第59回日本胆道学会学術集会にて、消化器・一般外科 小林慎二郎先生、梅澤早織先生が発表しました。 |
2023年8月 |
第50回日本膵切研究会にて、消化器・一般外科小林慎二郎先生、井田圭亮先生、西澤一先生、柴田真知先生が発表しました。 |
2023年7月 |
胆膵疾患フォーラムが開催されました。消化器内科 立石敬介教授が総合司会、消化器・一般外科 小林慎二郎先生が座長を行い、代謝内分泌内科 中村祐太先生が講演しました。 |
2023年7月 |
第54回日本膵臓学会大会にて、消化器・一般外科 梅澤早織先生がワークショップにて、病理診断科 野呂瀬朋子先生がパネルディスカッションにて、それぞれ発表しました。 |
2023年7月 |
第54回日本膵臓学会大会にて、消化器・一般外科井田圭亮先生、消化器内科 五十嵐洋介先生、病理診断科 大池信之先生が発表しました。 |
2023年7月 |
第78回日本消化器外科学会にて、消化器・一般外科 小林慎二郎先生、井田圭亮先生、梅澤早織先生が発表しました。 |
2023年6月 |
第35回日本肝胆膵外科学会学術集会にて、消化器・一般外科 小林慎二郎先生、土橋篤仁先生、井田圭亮先生、梅澤早織先生が発表しました。 |
2023年6月 |
日本消化器外科学会雑誌第56巻第6号に消化器・一般外科 井田圭亮先生の論文「臍帯ヘルニア術後の高度な腹腔内臓器位置異常を伴う胆石症の1例」が掲載されました。 |
2023年6月 |
第868回日本臨床外科学会東京支部会 消化器・一般外科 柴田真知先生が「安全に膵頭十二指腸切除術を施行できた血液透析患者に発生した膵頭部癌の1例」を発表しました。 |
2023年5月 |
第38回日本臨床栄養代謝学会学術集会 消化器・一般外科 小林慎二郎先生が「膵頭十二指腸切除術後の rapid turnover protein 変動に関する検討」を発表しました。 |
2023年5月 | 聖マリアンナ医科大学病院に、新たに神経内分泌腫瘍センターが設置されました。 |
2022年11月 | 第26回日本外科病理学会学術集会 スポンサードセッション 「膵腫瘍に対して過不足のない安全な膵切除を目指す取り組み」 小林慎二郎先生 一般演題 「術後リンパ節再発をきたした十二指腸原発組織球肉腫の1例」 梅澤早織先生 一般演題 「化学療法が奏功しConversion surgery後も比較的長期生存している非乳頭十二指腸癌の1例」 増田哲之先生 |
2022年11月 | 第84回日本臨床外科学会 ワークショップ 「重篤な膵液瘻を予防するシン・ギ・タイ」 小林慎二郎先生 |
2022年10月 | 第14回日本Acute Care Surgery学会学術集会のシンポジウムにて、消化器・一般外科 小林慎二郎先生が「深在性外傷性膵損傷に対する治療戦略」を発表しました。 |
2022年10月 | 消化器内科 立石敬介教授が総合司会を務めた胆膵疾患フォーラムにて、消化器内科 中原一有先生が「当院における胆膵疾患診療の取り組み」を講演しました。 |
2022年10月 | 消化器・一般外科 瀬上航平先生の論文「Lymph node recurrence and re-excision after primary tumor resection of a histiocytic sarcoma of duodenal origin: a case report」が、“Surgical Case Reports”に掲載されました。 |
2022年6月 | 腫瘍内科 梅本久美子先生がしばらく休職いたします。梅本先生の休職中は、腫瘍内科 伊澤直樹が副センター長代理を務めます。みなさまにご迷惑をおかけします。 |
2022年6月 | 消化器・一般外科 梅澤早織先生の論文「Low preoperative psoas muscle mass index is a risk factor for distal cholangiocarcinoma recurrence after pancreatoduodenectomy:a retrospective analysis」が、“World Journal of Surgical Oncology”に掲載されました。 |
2022年6月 | 腫瘍内科 梅本久美子先生の論文「The molecular landscape of pancreatobiliary cancers for novel targeted therapies from real-world genomic profiling」が、“Journal of the National Cancer Institute”に掲載されました。 |
2022年6月 | 消化器肝臓内科 中原一有先生の論文「Technique of straightening the guidewire using a balloon catheter for successful endoscopic transpapillary gallbladder stenting」が、”VideoGIE”に掲載されました。 |
2022年6月 | 消化器肝臓内科 中原一有先生の論文「Double-guidewire technique for endoscopic transpapillary gallbladder stenting」が、” Japan Hepatobiliary Pancreat science”に掲載されました。 |
2022年6月 | 消化器肝臓内科 中原一有先生の論文「Incidence and management of cystic duct perforation during endoscopic transpapillary gallbladder drainage for acute cholecystitis」が、”Digestive Endoscopy”に掲載されました。 |
2022年4月 | 消化器内科に新主任教授 立石敬介先生が着任しました。 |
2022年4月 | 病理診断科に分子病理学教授 大池信之先生が着任しました。 |
2022年4月 | 消化器・一般外科 梅澤早織先生の論文「EUS-FNAで術前に確定診断できたTS1の多形細胞型退形成癌の1例」が、雑誌“膵臓”に掲載されました。 |
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認知症(老年精神疾患)治療研究センター