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スタッフインタビュー

看護師2年目、全身管理を行うことの未熟さに気づき、全身をしっかり見ることができる看護師へ

看護師2年目、全身管理を行うことの未熟さに気づき、全身をしっかり見ることができる看護師へ

看護部

救命救急センター師長 山下将志

看護師を目指したきっかけは、小学生のときに祖父が脳出血で入院したこと。介護をする母親や祖母の姿を見て、医療に携わる仕事に興味を持ちました。出身地である鹿児島県の病院の脳神経外科で3年間看護師を経験したのち、聖マリアンナ医科大学病院の救命センターに転職し、今に至ります。
転職のきっかけとなったのは看護師2年目、交通事故で搬送され、頭の手術をされた患者さんでした。胸も受傷していて全身管理が必要だったのですが、全身管理に関する自身の知識のなさや未熟さを強く実感したのです。救急医療を含め全身をしっかり見ることができる看護師になりたいと思い、転職という形を選びました。

聖マリアンナ医科大学病院は全国で試験を開催しています。「上京しなくても受験できる」リクルートの不自由がないことがチャンスだと思いました。最初は大学病院を希望していなかったのですが、当時の副部長が面接で「いろいろとキャリアを積んでいくのであれば、大学の救命センターを希望すべき」と話してくださったのです。そこから大学病院の救命センターに強く希望を変えました。その方の助言がなければ今に至っていないと思うので、この出会いが非常に大きなきっかけですね。

山下医師

コロナ渦で多職種と協同し、患者さんご家族が
少しでも安心できる取り組みを実践

当院の救命センターは、一次救急から三次救急まで川崎市北部を中心とする最重症の患者さんを受け入れています。救急車は年間6000台、ウォークインの患者さんは約15000人以上の受け入れを行っているのです。新型コロナに関しては、神奈川県の最重症拠点病院として県内外からECMO治療を優先的に受けられる体制を整えています。2021年8月の第5波のときは、全病床をコロナ対応にしていく体制をとっていました。ECMOは2〜3台を常備していますが、コロナの重症者が多かったときは6台を稼働。ECMOが稼働すると5人以上のスタッフが必要になるため、医師、看護師、CEなどチーム一体となり対応しています。

ドクターカーは、川崎市の消防署と連携して要請があれば現場に出動しており、件数は月に10件前後あります。心肺停止や交通事故、集団の食中毒など、病院へ到着するまでに時間がかかりそうな症例の場合は、私たちが現場に行って対応する形をとっています。

コロナ渦の現在、ご家族との面会を長期に制限せざるを得ない状況です。回復の見込みが厳しい患者さんとご家族の面会をどのように行うか、ということが課題となりました。そこで、病院長を含め医師や薬剤師、理学療法士やエンジニアなど各診療部や、感染制御部、ソーシャルワーカーといった他職種でカンファレンスを実施。患者さんの思いを尊重する倫理的視点から、患者さんとご家族のご希望を安全に実現できる方法を検討しました。
ご家族には防護服を着用してもらい、患者さんのそばで面会を行うことをいち早く取り組んでいます。コロナ患者さんの面会は、オンラインで行ってもやはり距離感が生まれてしまうのです。画像による病状説明では患者さんの全体も見えづらいため、ご家族がベッドのそばに行って手を握ることで回復を実感できる場合もあります。たとえ回復が難しい場合であっても、患者さんのそばに行くことでご家族が状況を受け入れるきっかけにもなるため、対面での面会は非常に重要です。救命センターのすべてが救える症例ではない中で、ご家族のケアがとても大切であると思っています。

充実した緊急対応システム
「コードブルー」「トラウマコード」「ラピットレスポンスシステム」

当院では、「コードブルー」をはじめいくつかの緊急コールを設定しています。そのうちのひとつが、命を脅かすような外傷患者が運ばれてきたときに用いる「トラウマコード」。患者さんが運び込まれる前に、放射線技師やエンジニアなど各職種や、脳外科医、心臓血管外科医といったほぼすべての外科医が救命センターに集まる緊急対応システムです。トラウマコードを使うことで、患者搬送後その場ですぐに処置を開始できます。

また、「ラビットレスポンスシステム(以下、RRSと略す)」は、院内で患者さんの容体が急変した際に、救命センターから医師と看護師を派遣して緊急処置を行うものです。院内での死亡率や病気の悪化を防ぐことに特化した緊急体制であり、多いときは1日に1〜2件あります。当院は全国でもいち早くこのシステムを取り入れました。最近は全国の病院でも取り入れられ、当院をモデル化している病院も多くあります。
患者さんの中には、具合が悪くなることを前提で入院している方もいます。合言葉は、「悪化の前にこのコールを」。RRS件数が多いのは悪いことではないと捉え、「早く治療をしてよくなれば早く帰れる」ことをコンセプトに日々業務に励んでいます。また、当院では、全職員が各緊急コールの基準が記載された職員ハンドブックを携帯しているので、何か異常を感じたらすぐに動ける体制を整えています。「コードブルーを少なく、RRSを多くすること」が救急医療の院内安全に寄与すると思っていますね。

救急体制を充実させるためのもうひとつの手段としては、平日に看護師と診療看護師の数十名による全病棟のラウンドがあります。2010年くらいから認定看護師や専門看護師が不定期に開始し、本格的に稼働しはじめたのが2014年です。現在は、電子カルテのバイタルサインを活用してバイタルサインスコアを算出。異常が見られた場合は現場へ出向き、病棟のリーダーや師長に状態の安定しない患者さんがいないかを聞いて、できるかぎり取りこぼしがないようにしています。しかし、このシステムを超えて異常事態が発生することもあるため、救命の医師とラウンドをする看護師は常に連携を取りながら情報交換を行っています。
緊急対応については、救命センターの看護師が主体となり、院内の看護師を対象にした蘇生研修を毎月実施。一次救命処置と二次救命処置の要素を組み込んだ研修を、スタッフが中心となって開催しています。また、急変対応について学習会のコンサルテーションを受ける場合は、認定看護師やベテランの看護師が指導を行っていますね。

山下医師

災害の現場では医療の原点に戻った感覚
災害時に大切なのは被災者のメンタルケア

院内における主な活動は、救急や災害医療に関することです。院外では、看護学校や大学の非常勤講師として、災害看護や災害医療の講演・講義などの教育に携わっています。また、地域活動として、コロナ禍以前は行政と連携した地域の防災訓練へ参加していました。地域の方との交流や病院での救急車体験、花火大会の救護活動などです。その場でブースを出して、一般の方に救急蘇生を広める活動も行っていました。

私は、DMAT(災害派遣医療チーム)の一員として派遣されたことがあります。中でも東日本大震災は、DMATにかぎらず病院にとっても初めての災害対応でした。全国のDMATが一堂に東北に会しましたが、手探りの中、現場や病院全体で「支援として何ができるのか」ということを常に考えて行動していましたね。
震災1週間後に医療救護班の第一陣として災害現場に派遣となり、医療が行き届いていない避難所を巡りました。津波でいろいろなものが流され、お薬手帳や飲み薬がない、交通手段がなく病院へ行くことができないなど、日常のインフラが整っていないことを改めて実感したのです。災害現場では、今までの知識や技術が試される。医療の原点に戻ったような感覚で、あの緊張感は今でも深く記憶に刻まれています。
そして私が派遣された時期は、救われたことに対する希望とともに、身近で亡くなった方への絶望など精神的な疲労が出てくるタイミングでした。そのような方のメンタルケアや、被災者でありながら助ける側でもある行政・病院の方の思いを聞くことが一番多かったように思います。
2016年の熊本地震では、全国のDMATが迅速に対応を行っている印象があり、東日本大震災の経験が活かされていると実感しました。

当院のDMATの活動は震災だけでなく、2019年登戸駅での無差別殺傷事件でも出動しています。被害者のほとんどが小学校1年生で、中には心肺停止の方もいました。精神的に動揺を抱えている保護者や学校関係者、消防や警察などさまざまな人が入り乱れる中、19名近くの傷病者をいかにひとりでも多く救うか、究極の対応を行っていたことを記憶しています。

「できない」ではなく「できる方法を探す」
全力を尽くすことに妥協したくないという信念

私は看護師として、危機的状況にある患者さんが今を生きるために、自分ができる最大限の力を提供することを大切にしています。患者さんが今を生きるだけでなく、明日、明後日と回復に向かっていけるよう、全力を尽くすことに妥協したくない信念があるのです。そのためスタッフには、「できない」ではなく「できる方法を探してみよう」と伝えています。この信念が、想定を超える状況になったときの支えになります。
諦めることは本当に簡単です。諦めるのではなく今できることを一生懸命やるだけで、充分人を救えるということを実感してほしい思いがあります。

看護師長としては、若いスタッフたちが志を高く持ち、憧れる先輩をたくさん作り、そこに後輩がついて行く体制や看護を突き詰めていきたいですね。高いモチベーションでスタッフ育成を行い、それを維持できるような組織づくりを目指しています。

私はサッカーが趣味なのですが、サッカーを通した人事交流は、偶然出会ったところから輪が広がり、交流と情報交換ができる最高の気分転換の場所になっています。

皆さまへのお願いは、不要な救急受診を避けていただきたいことです。一人ひとりにご協力いただくことで、最善、最良のケアを提供するための人員を確保できます。ただ、突然病気やケガをすると、不安なことも多いと思います。私たち救命センターは最善の治療やケアを提供していますので、ご家族も含め安心して受診してくださいということをお伝えしたいですね。