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スタッフインタビュー

医療に興味を持ったきっかけは病気を抱えていた父

医療に興味を持ったきっかけは病気を抱えていた父

薬剤部

薬剤部課長補佐 前田 幹広

父が持病を抱え人工透析をしていたため、「少しでも力になりたい」という思いから医療に興味を持つようになりました。
医学部の受験で思うような結果を得られなかったので、薬学部への進学を決めました。

”患者さんの近くで働く薬剤師”を目指し、アメリカ留学を決断

私が薬剤師になった当時は、薬剤師が病院内の患者さんに近い位置で働ける環境がほとんどなく、調剤など薬剤部内での対物業務が中心でした。しかし私自身、本来は医師になりたかった思いがあり、患者さんの近くで薬の選択や投与量を調節するといった薬剤師の仕事に興味があったのです。調べてみると、日本よりもアメリカの方が自分の思い描く働き方が進んでいて、「アメリカの方が学びが大きいのでは?」と感じ、留学を決断しました。
私は子供の頃に英語の劇をしたことがあり、英語に触れる機会が多く興味を持っていました。アメリカでのホームステイ経験もあって、国際的な仕事にも興味があったのです。薬学以外の部分で国際的な視点を持っていることも重なり、アメリカ留学を選択したのだと思います。

アメリカの大学に入ってからは、授業もコミュニケーションを取るのも全部英語だったので最初はとても大変でした。ただ、向こうの薬剤師の仕事は、最初に自分が想像していた通り非常に患者さんに近い距離でできるものでした。医師や看護師など多職種間で議論をしつつ、薬のことは薬剤師がリードをしながら、「どの薬にするか」「用量をどのようにするか」というのを決めていく感じです。最近では、日本でも多くの病院でこのような体制が当たり前になってきていますが、私がアメリカに行った約20年前は一般的ではなかったため、いろいろなことを学ぶことができたと思っています。

全身を見ることができる集中治療分野の薬剤師

レジデンシープログラムの1年目は、日本でいう研修医制度のようにさまざまな領域を経験していきました。その中のひとつが集中治療です。実習に行くまでは集中治療にあまり詳しくなかったのですが、実習指導の薬剤師のおかげもあり、患者さんを全身で見ているという意識を養えました。集中治療は全身管理を行わなければなりません。何かひとつの領域に特化するのではなく、薬剤師も全身管理を学んで幅広い分野に精通している必要があります。循環器系でも神経系も消化器系、腎・泌尿器系もさまざまなことに詳しくなっていく過程は、難しくもありながら楽しさも感じました。その中で、薬剤師ができることが多岐に渡ると感じたため、集中治療を専門的に学んでいきたいと思ったのです。

留学後、聖マリアンナ医科大学病院へ

帰国当時、聖マリアンナ医科大学病院の2人の方から「あなたができること、アメリカで学んだことをぜひ患者さんのために発揮してほしい」と声をかけていただきました。1人は当時薬剤部長の増原さん、もう1人は私が留学をしている時にお会いしていた、救命の現教授である藤谷先生です。聖マリアンナ医科大学病院で働くきっかけは、このご縁が本当に大きいですね。

前田医師

裏方として薬の提案をしつつ、
多職種との連携を大切に

当院は、昔から臨床にとても力を入れている病院です。20年前は当たり前でなかった、病棟に薬剤師を常駐させることを早い時期から進めていました。薬剤師や医師、看護師、患者さんがとても近い距離感であったのが一番の特徴ですね。薬剤師からいろいろな提案をすることをとても好意的に感じていただける職種も多く、非常に仕事がしやすい環境です。

私自身、最近は部署の責任者として管理的な立場で仕事をする機会が増えてきています。集中治療の患者さんをみることがメインでなくなりつつありますが、ICUへの回診にも行くため、現場に関わりながらマネジメントも行っています。

聖マリアンナ医科大学病院の薬剤師として、医師や看護師からのさまざまな情報提供に対し「薬剤師さんがいて本当に良かった」という言葉をいただいたことは多くあります。ただ患者さんは、集中治療を受けている間、薬剤師も治療に関わっていることをほとんど知らないと思うのです。集中治療では、医師をはじめ多くのスタッフが協力・連携し合って、意識がない患者さんにいかにより良い治療を提供できるかを考えて動いています。薬剤師も、裏方であることが多いものの、縁の下の力持ちとしてさまざまな提案を行っています。

変わらない信念を胸に、患者さんのために日々考える

ICUの患者さんは日々変動するため、毎日医師とともに患者さんの回診にまわって薬の増減や変更の提案をしたり、医師や看護師から副作用に関する相談がきたりすることもあります。当院はチームとしてやりやすい環境を整えてくださっているので、薬の情報を提供することでチームが薬のことをモニタリングできる環境にできればと思っています。
ずっと変わらない薬剤部の信念は、「世界標準のファーマシューティカルケアを実践する」です。これを体現するために、患者さんにどのようなことができるかを後輩に伝えつつ、自分自身も毎日考えながら行動しています。

現在薬剤部には約80名が所属しています。病棟の仕事だけではなく、調剤や薬剤の払い出しや抗がん剤の説明・院内製剤の調整、医薬情報の収集、外来においての薬剤チェックなど、薬に関わることを幅広く行っています。担当病棟での仕事は病棟ごととなっているので、患者さんが病棟を変わることもありますが、そのような場合は担当同士が申し送りや情報共有を行い、多職種間・薬剤部内での連携を密にすることにも注力しています。

経験を薬剤師の育成や教育、JSEPTICの新規部会の立ち上げに活かす

当院の薬剤部は、私が入職した当時からアメリカやイギリスから帰国した薬剤師もいて、国際色豊かな職場でした。ただ、急性期や集中治療の専門の薬剤師はそれまでいなかったんです。自身の経験をもとにこれらの分野を若い薬剤師へ伝えたり、論文や臨床研究の結果をどのように患者さんに活かすかということに焦点をあてて部署内教育を行ったりと、底上げを行なってきました。

研究に関しては、専門領域のほか大学教員との共同研究や集中治療の薬剤師の団体での研究をしていますね。勉強会や院内研修は、立ち上げ当初からずっと関わっている論文の読み方などの研修を現在も変わらず行っています。このほか、新人研修や入職後2年目までの職員に対しての全体的な研修のマネジメントも担当しており、薬剤師の育成や教育については非常に重要視しています。当院は患者さんの近くに薬剤師がいる分、臨床の知識が不可欠です。大学では学べなかった実践的なことを現場で教え、できるだけ臨床で薬剤師が患者さんの薬物治療に貢献できるように、といった研修を行っています。

院外の研修に関しては、JSEPTIC(日本集中治療教育研究会)において薬剤師部会を立ち上げ、8年間代表を務めてきました。その中で、全国の薬剤師へ集中治療の薬剤師の考え方や役割を共有するセミナーを開いたり、メーリングリストの構築を行ったりしました。私はアメリカの集中治療医学会と日本の集中治療医学会の薬剤委員会に所属しているので、そこで共有された情報を自分の学びに活かしています。集中治療の薬剤師に何か貢献できることをという学会活動のもと、「集中治療室における薬剤師の活動指針」を作成しました。

前田医師

理想形は「病院と薬局の循環」。
薬に関する疑問は気軽に聞いてほしい

当院ではそれぞれの病棟に薬剤師が配属されていますが、外来など私たちが関わることができていない部分もたくさんあります。今後は、そのようなハイリスクになりうる場所に積極的に関わっていきたいですね。

今後の課題は、患者さんの退院後に病院内で起きたことをどう薬局に情報共有するかという「薬薬連携」です。理想は、患者さんの病院での情報がそのまま薬局にいき、薬局の薬剤師と患者さんがやり取りをすることによって、私たちの情報が自然にそこに共有されていくという形。当薬剤部としても、今後進めていきたいですね。

病院に入院したり、外来にかかったりすることで薬剤師と話す機会があると思います。気になることはその時に薬剤師に相談していただくことで、私達もいろいろな情報を提供できます。相談いただいた情報をもとに、患者さんの薬の効果をより良くしたり副作用やデメリットの部分をできるだけ少なくすることに貢献できるので、ぜひ気軽に薬剤師にお声がけください。