室長
山野 嘉久(主任教授)
わが国は、かつて医療先進国として、米国、欧州と並び、革新的な医薬品を創出する数少ない国でありましたが、近年のグローバルな開発競争の激化に伴い、その立ち位置に変化が生じております。一時期、国内医療の課題として深刻視されたドラッグラグは、関係各位の尽力と国民の皆様のご理解により、改善の方向に向かい、一部の医薬品においては世界に先駆けた上市も実現しております。
しかしながら、国際的な医薬品開発の潮流は、よりスピードと効率性を重視する方向にシフトしており、日本市場を戦略的にスキップし、グローバル展開を優先する製薬企業が増加している現状は否めません。この傾向は、従来の努力だけでは、本邦の医療水準が国際的な水準から乖離し、患者さんが最新の治療を受ける機会を逸する可能性を示唆しており、憂慮すべき事態であります。
医療の発展に不可欠な医薬品開発の最終段階である「治験」の環境は、依然として多くの課題を抱えております。特に、治験を担う専門人材の不足や、煩雑な手続き、そして厳しい倫理的配慮が求められる中で、その実施体制の維持と更なる質の向上は喫緊の課題と言わざるを得ません。
聖マリアンナ医科大学病院は、1997年に旧厚生省より大学病院として唯一の治験推進モデル病院に指定されて以来、わが国の治験体制の整備に微力ながら貢献して参りました。しかしながら、その後の治験環境の変遷は目覚ましく、かつて先進的であった当院の手法も、今や多くの医療機関で共有されるものとなりました。このような状況認識の下、当院は現状に甘んじることなく、グローバルスタンダードに照らし合わせ、常に自己変革を推進していく必要に迫られております。
我々は、「治験」が単なるデータ収集のプロセスではなく、「患者さん(国民)」、質の高い医療を提供する「医療機関」、革新的な医薬品を開発する「開発企業」、そして安全性を確保する「規制当局(国)」といった全ての関係者の協力と信頼の上に成り立つものであるという基本原則を堅持し、その上で、本邦の国民のみならず、広く世界の人々の健康と福祉に貢献するという使命を遂行して参ります。
特に、新しい治療法の開発に不可欠なご協力者である「患者さん」が、安心して治験に参加できる環境を整備することは、我々の重要な責務であり、今後も患者さんの視点に立った取り組みを強化して参ります。
また、近年、製薬企業による開発が進みにくい希少疾患や、いまだ有効な治療法が存在しない疾患に対する医師主導治験の重要性が高まっております。当院は、このようなアンメットメディカルニーズに応えるべく、積極的に医師主導治験を推進し、その成果を広く社会に還元することで、一人でも多くの患者さんの希望となることを目指して参ります。
何卒、ご理解ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
治験は、新しい薬(医療機器)を作るためには絶対に必要な「研究」で、患者さんに参加いただかないと実施できません。通常の診療とは少し違い、ご心配、ご不便に感じることがあるかもしれません。治験管理室のスタッフ(CRC:治験コーディネーターまたは臨床研究コーディネーター)が、ご負担を少しでも軽くするために支援させていただきます。
学附属3病院では多くの治験を実施しています。また近年、地域の先生方との協力関係で進める治験、研究も増えてきました。これらの試験に関連する有害事象発生時の対応などでは、相互の連携が重要です。治験管理室では、そのような地域との協力関係の支援をいたします。
本学付属3病院(「聖マリアンナ医科大学病院」、「横浜市西部病院」、「川崎市立多摩病院」)では共同IRBを設置し、治験にかかわる事務業務を一元化して管理支援業務の効率化を図ってきました。
またSMOのご協力のもと、より多くのご依頼に応えられるよう、努力をしております。
安全・正確・迅速な治験実施によって医療の発展に貢献したいと考えており、その実現の為に「患者さん(国民)」、「医療機関」、そして「開発企業」のより良い協働関係構築のために努力いたします。
昨今の臨床研究全体への風当たりの強さも十分に理解の上、大学に設置されている「共同倫理審査委員会組織」とも有機的に連携して、より安全・正確・迅速な臨床研究推進に努力します。そのためには、試験依頼者の皆様とも相互に緊密な情報交換を行い、建設的な提案を迅速に受け入れ、また当院・本学からも情報を発信する努力をいたします。
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認知症(老年精神疾患)治療研究センター