来院・入院の方

聖マリアンナの先進的な医療

褥瘡を含む難治性皮膚潰瘍の再生医療

多血小板血漿を用いた難治性皮膚潰瘍治療

聖マリアンナ医科大学形成外科学、幹細胞再生治療学(Angfa寄付)講座
■はじめに

 褥瘡を含む難治性皮膚潰瘍とは、寝たきりの患者さんや末梢循環が悪くなった糖尿病や閉塞性動脈硬化症の患者さんなどに好発する、広範囲に皮膚が欠損し時に感染している皮膚の状態の事を指します。現在各種の治療方法が考案され、それなりの成果を上げていますが、まだ満足すべき治療法は確立されていません。
 この多血小板血漿を用いた治療法は、患者さんご自身の血液から濃縮した血小板を皮膚潰瘍の創部に適用し、潰瘍を治療する新しい再生医療技術の一つです。これ迄の治療に対して、効果が見られなかった難治性皮膚潰瘍の患者さんに有効性が期待されます。
 この治療法は、聖マリアンナ医科大学形成外科学(井上 肇准教授)、幹細胞再生治療学(Angfa寄附)講座(渡部雄一特任助教)により独自に技術改良され、安定した有効性が得られる様になった事から第2項先進医療として国の承認(平成23年9月30日(先—200)第1号)が得られ、形成外科において患者さんの診療が可能(外来・入院含め)となりました。

■対象疾患

難治性皮膚潰瘍ならびに褥瘡

■方法

 治療については、患者さんのご同意(同意書の取得)が最優先となります。また医療費(約10万円程度)が発生します。

  1. 患者さんから、最大で60mL程度の採血を致します。(患者さんの潰瘍の状態により採血量は変動しますが、一回に最大60mLです。一般的に献血では200~400mL採血しますので、わずかな採血量です。)
  2. この血液を遠心分離と言う操作で、血小板だけ取り出して濃縮します。
  3. この濃縮された血小板溶液(多血小板血漿と呼ぶ)を、4分割致します(概ね一ヶ月分)。
  4. この分割した多血小板血漿の1本を用いて、患者さんの潰瘍部位に投与します。
  5. 7日間から10日間位(前後します)に一度の割合で、4回反復します。
  6. その後の潰瘍部の治療は、通常通りで、包帯交換も同様です。
  7. 通常1ヶ月4回の治療でその有効性を判断します。
■結果

厚生労働省に提出した本治療方法の概要書を提示します。



 中段には多血小板血漿を作成する迄の手順が示されています。患者さんは一度の採血をするだけです。この患者さんは糖尿病に伴う知覚障害のため、足部に重度の熱傷を受傷しました。従来の治療方法では上皮化(治癒)しなかったため、多血小板血漿治療を行いました。約40日で上皮化(治癒)し、その後の再発も認められません。
 下段の患者さんは糖尿病にASO(閉塞性動脈硬化症)を合併している患者さんです。血行が悪いために皮膚に栄養が届かず、皮膚の細胞が死んでしまい皮膚潰瘍となりました。感染も伴って、骨迄腐って(腐骨)しまい、最悪切断の可能性もありました。切断前の最後の手段で多血小板血漿治療を行ったところ著効を示し、切断を免れる事が出来たばかりか、自立歩行も可能となりました。

■多血小板血漿治療の有用性

 難治性皮膚潰瘍の治療法は様々あります。もっとも優れた方法は、熟練した形成外科医による皮弁とか植皮と言う外科処置です。しかしながら、このような難治性皮膚潰瘍に悩まれている患者さんは、全身状態が悪い事も多く、手術に耐えうる体力が残っていなかったり、患者さんご自身が手術を望まなかったりします。そのために、潰瘍部位に軟膏を用いたり、被覆材を用いたり、消毒薬を使用したりと言う保存的治療に終始する事も多々あります。
 勿論これらの治療で、ちゃんと治癒する患者さんもいらっしゃいますが、かなりの割合で潰瘍部位が感染してしまっていたり、制御出来ずに潰瘍が拡大したり、このままの状態が持続すると生命の危険にも及ぶケースもあります。
 過去においては、このような患者さんの潰瘍部位にはもはや成す術が無かった状態がありました。
 今回のこの多血小板血漿を用いた再生医療技術は、まだ完璧な治療法ではありませんが、このような成す術の無い難治性皮膚潰瘍の治療に一つの可能性が見えた事、そして患者さんに光を与えてくれました。

■おわりに

 私達が技術改良し確立した多血小板血漿による難治性皮膚潰瘍治療は、現実的な国内初の再生医療技術です。こういった現実的技術は、iPS細胞やES細胞による夢の再生医療が確立される迄の繋ぎ役として、とても重要な医療技術でありこれからも沢山開発されるでしょう。
 小さな研究室で、薬剤師と技術員数名がコツコツと研究を重ね、志を同じにする医師の協力があって踏み出せた本当に小さな一歩です。この一歩が新たな再生医療技術の開発のための道しるべとなれば幸いです。