手術療法 treatment

手術療法

手術には乳房切除術と乳房部分切除術(乳房温存術)があります。
乳房切除術の場合には同時に乳房再建術を行うこともできます。

乳房温存術

全身麻酔の手術で、入院期間は4~5日です。切除する範囲が広いほど温存した乳房の変形する度合いが強くなります。乳房は元通りになるわけではなく、切除部位によっては、軽度の陥凹を伴う場合もあります。術後に患部にたまる体液を排出するためのドレーン(排液管)を挿入することもあります。手術後温存した乳房へ放射線治療を行います。手術時、がんを切除した後の乳腺組織に小さなチタン製の金属クリップをつけます。これは放射線をあてる際に、がんがあった場所の目印として利用します。クリップが入っていてもMRIへの影響はありませんし、空港などでの金属探知機で問題になることもありません。治療終了後も取り除くことはありません。非常にまれですがアレルギーを起こすことがあります。チタンアレルギーの方はお申し出下さい。乳房温存術の場合、手術中に切除断端のがんの有無を調べて、追加切除を行う場合があります。

乳房温存術

乳房切除術

全身麻酔の手術で、入院期間は7日程度です。胸筋を残し、皮膚を一部含めて乳腺を切除します。胸筋を切除する方法は現在ほとんど行われていません。術後は切除した部位に血液や浸出液が貯留するためドレーンを挿入、体外へ排出します。
また、再建を考えている場合には、皮膚をできるだけ残す「皮膚温存乳房切除術」や乳頭乳輪を残す「乳頭乳輪温存乳房切除術」を行うことができます。

乳房切除術

乳房切除術

皮膚温存乳房切除術

皮膚温存乳房切除術

乳頭乳輪温存乳房切除術

乳頭乳輪温存乳房切除術

腋窩(えきか)リンパ節の手術

腋窩(わきの下)のリンパ節は脂肪組織の中にあります。これらを一塊にした決められた範囲まで切除することを郭清といいます。腋窩リンパ節郭清後はリンパ液が貯留するため、ドレーン(排液管)を挿入し、リンパ液を体外へ排出します。
乳がん手術の合併症に手術した側の上肢のしびれやむくみ(リンパ浮腫)、腋窩のリンパ液貯留があります。手術に際して腋窩リンパ節を郭清したことによるものです。腋窩リンパ節を郭清することは、乳がん細胞が転移しているかどうかを調べるために重要で、病期を判断し、全身治療の方針にも関わります。しかし、腫瘍が小さい場合などには、がん細胞がリンパ節に転移をしていない場合があります。

センチネルリンパ節生検

不要なリンパ節郭清を防ぐために、センチネルリンパ節生検を行います。センチネル(見張り)リンパ節とは乳がんからがん細胞が最初に流れ着くリンパ節のことで、このリンパ節のみ切除して、がん細胞の転移がないかを調べる検査をセンチネルリンパ節生検といいます。センチネルリンパ節に転移がなければ、ほかのリンパ節にも転移はないと考え、それ以上のリンパ節切除は行いません。

センチネルリンパ節生検 図

図:乳がん診療ガイドラインより改変

具体的な検査の方法としては、手術前日の午後か当日の朝、1階の核医学検査室で放射線同位元素(RI)の乳輪部に注射します。また、手術室で麻酔がかかった後、乳輪部に青い色素を注射します。この併用法によってセンチネルリンパ節を固定し、摘出します。通常センチネルリンパ節は1~数個あります。乳房温存術が行われた患者さんに対して、センチネルリンパ節転移があった場合でも術後放射線治療の放射線照射の範囲を調節することで、再発率に差がないという研究結果が報告されました。私たちは①温存症例である、②術前薬物療法を行っていない、③放射線療法を行う、④術後薬物療法を行う、という条件を満たす場合には、センチネルリンパ節に転移がみられた場合でも、腋窩リンパ郭清を行わない方針を取っています。

乳房部分切除術を行った後は、乳房内の再発を予防するために温存した乳房に放射線を照射します。手術の際に留置したチタン製のクリップはこの際に目印になります。また、乳房切除術を行った場合でも、5cmを超える大きさの乳がんやリンパ節転移が多数認められた場合は、治療効果を上げるために胸壁や腋窩、鎖骨上周囲などへ放射線をあてることがあります。

放射線療法 図

放射線療法は、術後の病理結果の説明を主治医から受けた後、放射線治療医の診察があり、治療の計画を立てます。その後、最長約6週間、平日に毎日通院して行われます。1回の照射時間は、数分です。具体的な照射の方法や期間については放射線科医師にお聞きください。
放射線照射中は、頭髪の脱毛や吐き気はなく、一時的に照射部位が日焼けしたように赤くなりますが、数ヶ月でよくなります。放射線をあてた皮膚の汗腺や皮脂腺はダメージを受けるため肌が乾燥しやすくなります。保湿剤などで皮膚の保湿に心がけてください。

赤くなる
2週間ぐらいから赤みおびてくる(紅斑)
かさかさ
汗腺へのダメージで皮膚がかさかさし、汗の分泌がなくなり、熱がこもるような感じになる(乾性皮膚炎)
じくじく
皮膚がじくじくしたり、水ぶくれになったりする(湿性皮膚炎)