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2010年 Reportage2

総合診療内科は地域医療の要石

総合診療内科 松田 隆秀 教授

 1980年、聖マリアンナ医科大学卒業。難病治療研究センター、リウマチ・膠原病・アレルギー内科において、ベーチェット病をはじめとする膠原病の臨床と研究に従事。2002年、日本における総合診療内科の必要性を自覚し、外来・病棟において若手医師・学生への臨床教育を実践するために、総合診療内科へ移籍。以後、連携の強化に尽力、同院メディカルサポートセンター長を兼任。
 

コミュニケーションが診療の鍵

―総合診療内科とは、どのような診療科ですか。
松田
 総合診療内科にはさまざまな定義があるのですが、聖マリアンナ医科大学病院では二つの役割を担っています。まず将来において地域で活躍する総合診療医(家庭医)を育てること。二つ目は地域のかかりつけ医や院内の専門診療科と連携して、患者さんにとって一番親切な診療を提供することです。たとえば、患者さんが地域のかかりつけ医からの紹介で来院されると、特定機能病院としての機能も生かし、外来あるいは入院の上、全人的な医療をふまえた診療を行います。その結果、必要ならば専門臓器の診療科とも連携します。そして治療方針を立て、紹介元の医師と連携し、患者さんが普段生活されている環境にお戻り頂きます。その後の患者さんの診療は、紹介元であるかかりつけ医が行えるようにします。
―総合診療医にはどのような能力が求められるのでしょうか。
松田 
臨床教育の側面からいうと、人と人とのコミュニケーション能力が基本的に重要であり、この能力を伸ばす教育にも力を入れないといけないですね。かつて医師が指示すれば、患者さんは当然従うべきだという時代がありました。しかし今は違います。医師は病気について患者さんにわかりやすく説明して、患者さんは自分が抱えている病状、病気のからくりについて納得して、患者さん自身が理解できるようにしなければいけません。そのためにはコミュニケーションによって信頼関係を築くことが必須であり、その能力は必要不可欠で、ぜひそこを認識して欲しいと思います。さらには、診断や治療法をずばり教える臨床教育ではなく、医療面接、身体所見から得られる情報を広い視野で捉えて思考する、すなわち的確な臨床推論を実践できる能力を身につけることが必要です。

―コミュニケーション力はどのようにしたら高められますか。
松田
 まず患者さんばかりでなく、普段の生活で出会うさまざまな人たちと気持ちを通じあえる接し方を身につけることですね。もう一つは、患者さんが来られたとき、どうしてその病状に至ったか、親身になって話を聞くことです。それができて、初めて本来の診療に移っていけるからです。病気の経過をたずねることで、ある程度病気の性質がわかったり、診断の方向性が見えてきます。さらに、その患者さんの家庭環境、生活環境、いろんな悩みもキャッチすることによって、病気の治療・その後の療養の方向性がかなり見えるようになるのです。
 次に身体所見、いわゆる診察になります。まだ若いうちから「将来は特定した臓器の専門医になる」とあまりにも強くイメージしていると、基本である「全身を診る診察能力」の勉強が手薄になってしまいます。私たちは頭痛の患者さんでも、頭痛以外の症状がないかどうか、かなり詳しくたずね、胸やお腹の診察もします。医療面接や診察ではそれらの情報を要領よくキャッチすることが求められるのです。おそらく診療の現場では、そこまでを15分から20分で完結しなければならないでしょう。こういった訓練を卒前から日常的に重ねることが重要であることを、入学時から念頭に置いて欲しいですね。
―病院内のコミュニケーションも大切になるのでしょうか。 
松田
 患者さんの疾患を自分自身で解決できるものならよいのですが、たとえば緊急時にレントゲンを撮る、CTを撮る、MRIを撮るとなったとき、その場で放射線部に検査依頼をすることになります。そこでは放射線技師とのコミュニケーションが必要です。そうしないと本当に欲しかった情報が返ってこないからです。
 さらに、いろいろな専門領域の医師とのコミュニケーションもあります。それがないと診療の依頼をしても、的を射た診療をしてもらえません。「あの医師はこういうことを求めて依頼してきたのだな」とわかりあえて、初めて必要で、かつ親切な回答が戻ってくるからです。

地域開業医との連携が患者さんの安心を生む

―地域開業医とはどのように連携をしているのですか。
松田
 現在は、大学病院メディカルサポートセンターが主催する講演会や勉強会で地域開業医の先生方とコミュニケーションをはかったり、紹介患者をお戻しする場合は、文書での返信だけでなく、必ず電話等で直接お話をします。書面では伝わらない内容が明らかとなったり、地域開業医の先生からの質問にもお答えすることで、より円滑に自宅での療養が可能となるからです。
 将来的には、地域開業医から紹介されて入院した患者さんの退院が近づいたとき、地域開業医にも大学病院に来てもらい、一緒に退院時のカンファレンスを行うことができればと思います。とくに退院後に在宅医療へ移行する場合、以前は大学病院と地域開業医の間に直接的なコミュニケーションはなく、退院する際に「おそらく来週には、開業医の先生と訪問看護ステーションの方がご自宅を訪ねますよ」という程度でした。患者さんにしてみれば、退院が近づくと非常に不安だと思います。もし地域開業医や訪問看護ステーションの看護師に聖マリアンナ医科大学病院まで来ていただき、本人、家族、私たちと病棟の看護師が一緒にカンファレンスできれば、患者さんはとても安心されるでしょう。
―聖マリアンナ医科大学病院では、地域医療との連携を強化するために、どのようなことを行っているのですか。 
松田
 私はメディカルサポートセンター長も兼務しているので、後方病院、回復期リハビリ病院など地域医療機関との連携体制の強化にも取り組んでいます。地域の医師、看護師、薬剤師の方々とも、定期的に情報交換の会を定期的に開催しています。また、地域の方々への健康についての啓発活動も行っています。たとえば地域のFMラジオ放送で、約1年間さまざまな疾患の解説をしました。疾患の解説だけではなく、身体各臓器の働きを興味がわくように解説し、この部分が障害をもつとこういう病気になる、こういう症状がでますよという解説とそういったときには、地域のどのような医療機関を受診するとよいか、についてお話をしました。

―総合診療医の仕事は幅広いのですね。
松田
 総合診療医はよくある症状や、よくある疾患を扱う医師と考えられがちですが、決してそうではありません。様々なよくある症状で受診された患者さんから、緊急を要する例、重篤な病態につながる例、他の専門医と連携すべき例などを的確に選別する能力が、総合診療医には最も求められているのです。また、体重減少、不明熱といった全身症状の原因究明に対応するのも総合診療医の大事な役割です。
 ほかにも、従来の行政区割りで考えた地域医療とは違う、患者さんの疾患に応じた地域連携作りにも取り組んでいるところです。地域で患者さんが発病したら、まずこの急性期病院で1週間、その次は回復期の病院で2週間、それから自宅に帰り、在宅医療に入ったときはこのような体制でやろうという、おおよそスタンダードな地域における役割分担と時間経過を作っておきます。適応する患者さんが来られたときには、A病院、B病院、そしてC病院というように、すでに地域全体での受け皿があるわけです。今までは発症した患者さんごとに連携を考えていました。これからはそうではなく、地域全体で医療機関のネットワークが完成していて、種々の疾患に対応した連携がすでにできているのです。これを「地域連携パス」と呼びます。このような地域連携パスを作ることも、私たち総合診療医の役割です。地域の方々が病気になられたときのために、地域全体で捉えて受け皿を先に作っておくのです。
―ほかにはどのような研究をされているのですか。
松田
 研究テーマの1つに「迅速診断キット」の開発があります。医療面接や診察だけでは疾患の原因をそれ以上特定することが困難なことがあります。たとえば肺炎であったとき、なるべく早く、どういう微生物による肺炎か、すなわち起因菌を調べなければいけません。肺炎で一番多いのは肺炎球菌という菌ですが、時にはレジオネラ肺炎というものもあります。私たちは起因菌を予想し、最も有効な抗菌薬から使い始めるわけですが、たとえばレジオネラ肺炎ならそれにあった抗菌薬を選ばないといけないわけです。現在は肺炎球菌やレジオネラの迅速診断キットが既に発売されています。これを使うと10分から15分で結果がわかり、有効な抗菌薬を速やかに選択することができます。その他の病気においても私たちは開発企業にデータを提供したり、使い勝手についてアドバイスすることで臨床の場で役立つ「迅速診断キット」の共同開発も行おうとしています。

患者さん全体を診るという信念

―大学院の研究について教えてください。
松田
 大学院ではプライマリケア・地域医療学コースを担当しています。プライマリケアは包括性(全人的)、継続性、地域性に特色付けられた医療です。それには、病歴、身体所見、検査所見の解釈、根拠に基づいた臨床推論を進める能力が必要不可欠です。このコースでは、臨床の場から得られた多くの情報を臨床統計学の手法を用いて解析し、現場に還元できるような研究をしています。例えば、種々の徴候と疾患との関連性、各感染症起因菌の疫学調査、迅速診断法、抗菌薬の適正使用、新しい抗菌薬の臨床的評価、院内感染制御などについて臨床から得られたデータを解析し、臨床に還元することを目指しています。その他将来、地域で活躍できる医師、医療機関の開設者・管理者として必要な病院経営についても学びます。
―先生はなぜ総合診療内科に進まれたのですか。
松田
 私は以前、難病治療研究センターにいました。その時は専門領域に特化した臨床と研究に従事していました。研究を通して難治性疾患の原因を解明したり、難病の治療薬を開発することが、世界中の患者さんの役に立つことだと考えていました。しかし、一方で自分の信念として、専門家であっても専門領域だけを診るのではなく、患者さんの全体像を診て、喜んでいただけるような医者でなければ、とも思っていました。「将来、どんな専門家になっても、自分は一般内科医である」という気持ちがあったのです。それは地域の開業医の息子として育ったことも影響しているでしょう。父の患者さんがいつなんどき家に飛び込んでくるかわからないという環境でした。父は夜中でも往診に行って明け方まで帰ってこないこともありました。ですから地域における総合診療医(家庭医)の役割とはどういうものか、自分なりに理解できていたのだと思います。

―受験生に対する応援のメッセージをお願いします。
松田
 皆さんには将来の医師像と大きな夢を持って、ぜひ聖マリアンナ医科大学に来て欲しいと思います。受験生の皆さんには、将来医師になるには、どのような能力が必要か、どのようなことに気をつけて自分を伸ばしていけば、将来よい臨床医になれるかを考えて欲しいと思います。医学部の学生なら、そういった心がけが必要ですし、私たちは皆さんのために、一番よい環境を提供していきたいと思います。おそらくここ20~30年は地域で活躍できる総合診療医が強く求められる時代が続くでしょう。その中でコミュニケーション能力が備わり、全人的な医療が実践できる総合診療医を育てることが私の役割です。将来、地域で中心的な役割を担う総合診療医が、聖マリアンナ医科大学から大勢育って欲しいですね。