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2006年 Reportage1

尾崎承一
内科学(リウマチ・膠原病・アレルギー内科)教授 医学博士

大学における「今日の臨床」は「明日を目指す臨床」。さまざまな出逢いの中から、医師としてのモチベーションが生まれる。

未だ原因の全貌が解明されていない膠原病。
その治療戦略を探る旅は続く。

写真 膠原病。主な症状に関節炎・皮疹・発熱などが見られ、免疫異常を基盤として血管および結合組織に、急性あるいは慢性炎症をきたす多臓器疾患である。具体的には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(強皮症)、多発性筋炎/皮膚筋炎、結節性多発動脈炎といった病気が膠原病に含まれる。この膠原病をはじめ、アレルギーや自己免疫に関わる数々の難治性疾患を担当しているのが尾崎である。
 「膠原病は3つの顔を持っています。(1) 関節痛や筋肉痛などに加えて関節がこわばる、体がだるいといった症状を引き起こすリウマチ性疾患という顔。(2)関節・筋肉・腱・腱鞘・血管といった部位にさまざまな症状が現れる結合組織疾患(細胞間の結合組織に異常をきたす病気)という顔。(3)自己の成分に対して無反応であるべきリンパ球が自己の成分に対して反応してしまい、組織傷害を引き起こす自己免疫疾患という顔。このようにいろいろな病気の性格を併せ持つのが膠原病の特徴です」

(図「膠原病の3つの顔」参照)
図「膠原病の3つの顔」

写真 全国で推定患者数約70万人の「関節リウマチ(RA=rheumatoid arthritis)」と約3万5,000人の「全身性エリテマトーデス(SLE=systemic lupus eryhtematosus)※1」が代表的な膠原病であり、治療対象の大半がこれに属すると言う。
 ここで、現在、尾崎が進めている関節リウマチの治療戦略について触れてみよう。関節リウマチとは関節の痛み・腫れ・炎症が全身に広がり、これらの症状が続くと関節の変形・破壊が進み、最終的には身体障害にまで至る病気。フランスの画家ルノワールが関節破壊と戦いながら画筆を持ち続けたのはよく知られた話だ。悪性関節リウマチにかかると、生命に関わることもあるという。主に20~40歳代の人が発症しやすく、男女の比率は1:4と圧倒的に女性が多い。原因は現在のところ解明されていないが、ある特定の体質の人が特定の環境の中で変化をきたし、ウイルスに感染したりすることが引き金となって「免疫異常」が生じ、慢性的に全身の多くの関節が炎症を起こすのではないかと考えられている。この病気に対し尾崎の進める一つの治療法、それは生物製剤による抗サイトカイン療法だった。
写真 「リウマチ性疾患において炎症が起こるメカニズムの一つは、サイトカインという物質であり、指令を出すサイトカインとその指令を受けるサイトカイン・レセプター(受容体)というものとが鍵と鍵穴のようになっています。炎症を起こすサイトカインにはIL-1、IL-6、TNF-αなどがあり、これらが強いといつまでも炎症が続き慢性炎症となってしまうが、逆に炎症を抑えるサイトカインが勝つと炎症は自然に治まる。つまり、炎症を起こすサイトカインが働かないようにしてやれば、炎症を抑えるサイトカインが優勢になり炎症が治まります。この治療法を抗サイトカイン療法と呼び、まるでステロイド剤のように治療翌日には痛みがやわらぐのです。リウマチの根本的な治療法とは言えませんが、骨破壊も抑制するかもしれないと期待されています。日本でも平成15年から抗TNFα抗体(インフリキシマブ)が認可され、その有効性が確認されています。近い将来には可溶性TNF受容体(エタネルセプト)も認可されることでしょう。他にも抗IL-6受容体抗体(MRA)や、僕らが解析してきた新規可溶性gp130分子(gp130-RAPS)、ホリスタチン関連蛋白(FRP=follistatin-related protein)も関節炎の局所治療に効果が期待できると確信しています」
 治療戦略について語りだしたら、尾崎は止まらない。次から次へと話題が移行し、いずれも詳しく解説してくれた。誌面の都合上、割愛せざるを得ないが、新しい治療戦略を探す旅は当分続きそうだ。

難治性疾患の治療法を開発するには
日本人の、日本人による、日本人のための
evidenceの確立が必要

写真 平成14年度から厚生労働省・難治性血管炎調査研究班の班長を務めている尾崎。班では現在、結節性多発動脈炎※2、ANCA関連血管炎※3、高安動脈炎※4、バージャー病※5などの血管炎を対象に治療の向上に重点を置いた臨床研究が行われている。特に大阪大学の研究グループとベンチャー企業が協力して積極的に取り組むバージャー病の遺伝子治療は、一つの目玉。生死に直結した疾患以外の慢性疾患に対する遺伝子治療は国内初の試みであり、またHGF(肝細胞増殖因子)※6の臨床応用も世界初として注目を浴びている。
 2番目の目玉として挙げられるのが、難治性血管炎での血管再生という観点から再生医学やゲノミクス※7、プロテオミクス※8などを応用した新たな治療法の開発。最先端の解析システムを用い、治療に展開していく新しい試みだ。
 3番目の目玉は、希少性難治性血管炎を対象とした多施設共同臨床試験の推進と根拠に基づいた医療《EBM(evidence-based medicine)》の確立である。治療・診断技術の高度化あるいは新規治療の開発、医療環境の整備などを達成するには、まず科学的に信頼性の高い多施設共同臨床試験体制を整えなければならない。これはEBMの概念とも呼応する。尾崎によれば「EBMとは、個々の患者さんの治療について、現在ある最良の根拠《evidence》を明確に理解したうえで、その治療法を選択していこうというもの。臨床的な診断や治療はともすれば個人の経験や慣習に左右されることがよくあります。また、単に権威者の意見により決定されることもあります。これらの方法は、しばしば何の根拠もなく行われているために、患者さんにとって最良のものとならないことも。EBMはこれを回避するために、知りうるかぎりの疫学などの研究成果や実証的、実用的な根拠を用いて、効果的で質の高い患者さん中心の医療を実践する手段です」とのこと。こうしたevidenceを外国に頼っている日本では、的確な治療法も生まれにくいと尾崎は言う。
 「外国と日本では体格も風土も医療制度も違います。やはり日本人の、日本人による、日本人のためのevidenceの確立が必要なんです」

私にとって、
臨床とは「出逢い」である

写真 本学の門を叩いてほしい人は、「病気の人と、その人を抱える家族に対する思いやり」「治療にあたる同僚やパラメディカル※9との協調性」「日進月歩する医療技術の進展、知識の増大に備えるべく、たゆまぬ研鑽をする姿勢」をすでに身につけている人です、と尾崎は言う。これら医師に必要な資質は幼いときからの「しつけ」の結果であり、大学入学時には各自に備わっているはずだとも。大学で教えることは、それらの具現、つまり資質を開花させ良医になってもらうための方策に過ぎない、と。さらに、特に臨床医は、人と接することが苦にならない人でないと勤まらない。他人の気持ちを理解できない人は臨床医になる資格はない、と断言している。
写真 尾崎にとって臨床は「出逢い」という言葉に集約される。患者さんや同僚、パラメディカルなど、人との「 出逢い」。また、今まで見聞きし得なかった未知の病態との「出逢い」。新しい病因論の展開と(それに基づく)治療法との「出逢い」。これらが臨床を続けていくための強いモチベーションとなるのだ。
 大学の臨床は“明日をめざす臨床”。昨日までにわかっていることを、今日も明日も同じように患者さんに正しく行い、この範囲内で治療を続ける一般病院の“昨日の臨床”とは一味違う。もちろんこれも大切なことだが、大学に課せられた使命は“明日の臨床”を作り上げていくこと。そのために、EBMのためのevidenceを確立する臨床、病気の原因を解明するための基礎研究、それに基づく新しい治療法開発のための臨床研究を行っているのだ。
 「それが、大学という限られた場所を与えられた大学人の使命ではないでしょうか」

臨床の基礎として幅広く
治療にあたることができる。
これは内科学の醍醐味ですね

写真患者さんの病気は、単に個々の臓器の障害ではない。また、病気は全人的に捉えなければならない。単一臓器しか診ない(診られない)専門家になってはいけない、と尾崎は訴える。最後にリウマチ内科学の面白さを尋ねたところ、「リウマチ内科学では、診断は専門的だけど、診療はきわめて一般的です。また、頭のてっぺんから足の先まで、どの臓器の症状を見ても“専門外”という拒否感がなく、患者さんの病気を全人的に捉えることができます。現役時は希少価値の高いリウマチ専門医として活躍できるし、将来は一般内科医としてのつぶしもきく(笑)。臨床の基礎が身につく絶好の場だと思いますよ」と締めくくってくれた。

(文中敬称略)

※1 発熱、全身倦怠感などの炎症を思わせる症状と、関節、皮膚、内臓などのさまざまな症状が一度に、あるいは次々に起こる原因不明の病気。本来なら、自分の体を細菌やウイルスなどから守ってくれる役割をするはずの免疫が、この病気にかかると自分の体を攻撃するようになり、全身にさまざまな炎症を引き起こす。

※2 中等度の太さの動脈と細い動脈に炎症が生じる疾患で、全身の諸臓器に分布する血管に動脈炎を生じることから、多彩な症状を呈する。

※3 抗好中球細胞質抗体(Anti-neutrophil cytoplasmic antibody ; ANCA)が発症に関連している血管炎。腎臓や肺などを中心に、全身諸臓器の細い動・静脈や毛細血管に炎症を起こすのが特徴。顕微鏡的多発血管炎、ウェジナー肉芽腫症、アレルギー性肉芽腫性血管炎の3疾患が代表的疾患である。

※4 高安右人教授が1908年に始めて報告したことから、この名が付いた。大動脈やそこから分枝する大きな血管に生じる原因不明の大型血管炎。炎症の結果、血管の狭 搾、閉塞あるいは拡張が生じ、その血管が支配している臓器に虚血による障害を引き起こす。

※5 Leo Buergerによって初めて報告されたことから、バージャー病(英語読み)あるいはビュルガー病(ドイツ語読み)と名付けられた。閉塞性血栓血管炎と呼ばれることもある。四肢の 末梢血管に閉塞をきたす疾患で、その結果、四肢や指趾の虚血症状(血液が十分供給されないためにおこる組織の低酸素症状)が起こる。

※6 1984年、大阪大学の中村教授らにより、70%部分肝切除ラット血清から発見。さらに1986年鹿児島大学の合田教授らによって劇症肝炎患者血清から 見出された。分子量が約10万の蛋白質で、当初考えられたような肝細胞に特有な増殖因子ではなく、いろいろな上皮細胞、血管内皮細胞、心筋細胞、軟骨細胞などを標的として働く増殖因子(サイトカイン)であることが判明した。その結果、HGFは非常に多様な生 物活性をもち、組織器官の形成や再生に必須な因子と考えられている。

※7 ヒトゲノム(人間の全遺伝情報)を解析する手段や技術。

※8 ある時ある細胞(あるいは組織)に発現している蛋白を網羅的に解析する手段や技術。細胞ネットワークや細胞プロセスにおける全体的な生物学的情報を得る事を目的としている。

※9 補助的な立場で医療に係わる、例えば看護、物理療法、言語療法など関連分野のこと。職業としては看護師の他、技術者、薬剤師など、医師以外で患者の治療をするために患者に触れることを許される医療者を指す。