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掲載日:2020年6月30日

慢性活動性EBウイルス感染症について新WHO分類、新診断基準の下での全国調査を実施~小児発症例と高齢発症例の臨床像の差と、治療の実態が明らかになりました~

プレス通知資料(研究成果)はこちら

ポイント

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)について、2015年に診断基準が作成されてから、そして2017年にWHO造血器腫瘍分類における定義が改訂されてから、初めて、かつこれまで最大の全国調査を実施しました。
●CAEBVの小児発症例と高齢発症例では臨床像、予後に差があることが明らかになりました。
●現在のCAEBVに対する化学療法では効果が不十分であることが示されました。
以上の結果はCAEBVのさらなる病態解明と新規の治療法開発の必要性を示すものです。

研究概要

聖マリアンナ医科大学 血液・腫瘍内科、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科血液疾患治療開発学の新井文子(あらい あやこ)教授らのグループは、慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)について2017年改訂のWHO造血器腫瘍分類に新たに定義され、本邦の診断基準が発表されてから、初めて、かつこれまでで最大の全国調査を実施しました。
この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の難治性疾患実用化研究事業における研究開発課題「慢性活動性EBウイルス感染症を対象としたJAK1/2阻害剤ルキソリチニブの医師主導治験」の支援のもと行われたものです。その研究成果は、米国科学誌Blood Advancesに、2020年6月29日午後12時(米国東部標準時間)にオンライン版で発表されます。

研究の背景

慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)は、強い炎症が持続し、かつEBウイルス(EBV)に感染したT細胞、NK細胞 (用語説明1) が腫瘍化していく進行性の希少疾患です。これまでの報告では日本をはじめとする東アジアに集中し、欧米からの報告はほとんどありませんでした。また、希な疾患であるため、その臨床像は不明な点が多く、かつ、腫瘍でありながら腫瘤(かたまり、こぶ)を形成することが少ないことから病理診断も難しいとされてきました。しかし、近年この状況に変化が起こりつつあります。2017年にWHOによる造血器腫瘍分類(WHO2017)が約10年ぶりに改訂され、その中でCAEBVがEBV陽性T,NK細胞腫瘍として明記されたのです。このことにより、CAEBVは世界の血液内科医、病理医、研究者へ広く周知され始めました。WHO2017では、CAEBVについて全身症状を認める全身型(systemic)CAEBV(sCAEBV)と、皮膚に症状が限局している皮膚型(cutaneous)CAEBVに分類しています。また、本邦ではWHO2017で取り入れられた病気の定義に基づき、かつ、病理診断が困難であることも踏まえ、診断基準を厚生労働省の研究班が作成しています。それまで、CAEBVについては、EBVのT細胞、もしくはNK細胞への感染を確認せずに診断が行われることも少なくありませんでした。そこで、本研究では、WHO2017の定義に合致したsCAEBV(CAEBVの多くはこちらに該当します)について、臨床像と治療の実態を明らかにする目的で、全国調査を行いました。

研究の結果

全国の血液内科および小児科1089施設にアンケートを送付し100例の患者データが集まりました。年齢構成は1歳から78歳まで(中央値21歳)で、半数以上が成人例でした。症例を9歳未満の小児発症例、10-45歳の思春期/成人発症例、45歳以上の高齢発症例の3群に分けて比較すると、興味深いことに、9歳未満の小児発症例は78%が男性であった一方、45歳より高齢での発症例は85%が女性でした(図1)。思春期/成人発症例には性差は見られませんでした。小児発症例の予後は他と比較し良好でした(図2)。


図1 CAEBVの年齢別症例数と性差



図2 年齢別の生存率


病理検査 (用語説明2)により診断された例は15%でしたが、血液を用いてEBVのT細胞、NK細胞への感染を明らかにすることで診断された例は85%でした。
治療については、同種造血幹細胞移植(用語説明3、以下 移植)が行われた症例では 、3年生存率が、移植のみでは85%、化学療法後、移植を行った例では65%と、長期生存がみられました(図3)。一方で、移植が行えず、化学療法のみで治療を行った症例の予後は、治療開始後の3年生存率は0%と厳しいものでした。また、ステロイド、免疫抑制剤、化学療法などの薬物治療によってEBウイルスに感染したT細胞、NK細胞を除去できた症例はありませんでした。




図3 治療別生存率

研究の意義

本論文は、sCAEBVに対し、2017年に改訂されたWHO造血器腫瘍分類の定義に基づいて、本邦で全国調査を行ったもので、これまで報告されたものとしては、最新かつ最大のものです。
今回の調査で特筆すべき点は、
小児発症例と高齢発症例では異なる病像・病態を示すこと
残念ながら既存の化学療法のみでは根治は得られなかったが、移植実施例では生存率が改善されること
を、新たに明らかにした点です。
また、血液を用いた診断が広くなされている一方で、病理検査による診断が困難であることも明らかになりました。
CAEBVは、本邦のみならず海外でも大きく注目されています。本論文の結果は、発症機構の解明に寄与するとともに、診断法の開発、そして何よりも、有効な治療薬の開発がいかに必要であるか、厳しい現実を改めて私たちに突きつける、重いものであると考えます。

用語説明

1.T細胞、NK細胞:白血球の一つ、リンパ球は、B細胞、T細胞、NK細胞に分類されます。リンパ球は、ウイルスや細菌などの病原体がヒトに感染すると活性化、増殖し、炎症(免疫反応)を起こして病原体を抑え、それらを駆逐します。
2.病理検査:患者さんから採取した臓器・組織・細胞を顕微鏡などで観察し、診断を行う検査のことを病理検査、といいます。がんの診断は、通常、病理検査で行われます。
3.同種造血幹細胞移植:大量化学療法や全身放射線照射などを組み合わせた前処置の後に、健常人由来の造血幹細胞を輸注(移植)し、患者さんの造血および免疫系細胞を健常人由来の造血・免疫系に置き換える治療法です。

論文情報

掲載誌:Blood Advances
論文タイトル:Nationwide survey of systemic chronic active EBV infection in Japan in accordance with the new WHO classification
DOI:10.1182/bloodadvances.2020001451.
著者:Ichiro Yonese, Chizuko Sakashita, Ken-Ichi Imadome, Tohru Kobayashi, Masahide Yamamoto, Akihisa Sawada, Yoshinori Ito, Noriko Fukuhara, Asao Hirose, Yusuke Takeda, Masanori Makita, Tomoyuki Endo, Shun-ichi Kimura, Masataka Ishimura, Osamu Miura, Shouichi Ohga, Hiroshi Kimura, Shigeyoshi Fujiwara, Ayako Arai

研究者プロフィール

新井 文子(アライ アヤコ)Ayako Arai

聖マリアンナ医科大学 血液・腫瘍内科 教授
東京医科歯科大学 血液疾患治療開発学 教授

研究領域

血液内科学、血液腫瘍学

問い合わせ先

研究に関すること

聖マリアンナ医科大学血液腫瘍内科
新井文子(アライ アヤコ)
TEL 044-977-8111, FAX 044-977-8361
E-mail:ara.hema@tmd.ac.jp

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
血液疾患治療開発学分野
TEL:03-5803- 5882 FAX:03-5803-5882



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