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掲載日:2020年4月10日

ライリンを標的とした悪性神経膠腫治療の可能性

悪性神経膠腫(Malignant glioma, MG)は、脳実質内で浸潤性に発育し、その腫瘍境界が不明瞭であることを特徴とする予後不良の脳腫瘍です(Cuddapah VA, 2014)。MG細胞の特性として、浸潤性、増殖性が高く、がん幹細胞性を有することが挙げられます。このMG細胞の特性の根底には、上皮間葉移行(epithelial-mesenchymal transition, EMT)の進行が大きく関与しているとされます。EMTとは、上皮細胞が細胞極性を失うなど間葉系細胞様に変化する現象です。EMTを起こした細胞は組織浸潤能を獲得することから、EMTはがん細胞の浸潤や転移に関わっているとされます。MG細胞のようなグリア細胞の場合、間葉系性質を強める現象は遺伝子の発現パターンの観点からEMTと非常に類似しているため、glial-mesenchymal transition(GMT)と称されています。
ライリンはC型レクチン様モチーフを持つI型膜貫通タンパク質です(図1, Borowsky ML, 1998)。ヒアルロン酸の受容体とされていますが、その機能は不明点が多く、疾患との関連も殆ど報告されておりません。我々は、上皮細胞由来とされる腎明細胞癌細胞を使った研究で、TNF-αによってライリンの発現が増強し、かつ、EMT様形態変化とEMTマーカー変化を起こすこと、TNF-α誘導性EMTがライリンの発現抑制により起こらなくなることを見出しました(図2, 本グループ論文(Adachi T, 2015)より一部抜粋改変)。これはTNF-α誘導性EMTにライリンが必須であることを示しています。
さらに、MG細胞株を使った研究で、ライリンが正常星細胞と比較して強く発現すること、及びライリンの発現抑制によりEMT制御の主要調節因子であるSNAI1が減少し、浸潤能が低下することを見出しました(図3、本グループ論文(Kaji T, 2019)より一部抜粋改変)。これは、ライリンがEMT様変化とされるGMTを介して細胞浸潤能に寄与していることを示しています。これらのことから、ライリンが悪性神経膠腫治療標的の有力候補になると考えています。今後、ライリンの直接的な作用点を明らかにし、その機序に基づいた新規治療法の確立を目指します。

〇Adachi T et al. Biochem Biophys Res Commun. 2015 Nov 6;467(1):63-9.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006291X15306380?via%3Dihub
〇Kaji T et al. Brain Res. 2019 Sep 15;1719:140-147.
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0006899319302896?via%3Dihub

生化学01

 

聖マリアンナ医科大学 生化学