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掲載日:2020年1月21日

プロバイオティクスによる薬剤耐性に対する新たなアプローチ

感染症は今なお、主要な病気です。日本人の主要な死因のひとつである肺炎は高齢化の進展により、今後も増加すると考えられます。入院患者さんの約1/3は、なんらかの感染症で抗生物質(抗菌薬)を投薬されています。一方、従来の抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が増加しています。これら薬剤耐性菌は、これまでよく効いていた抗菌薬が効かなくなった細菌で、病原性は必ずしも強くないものの感染症の原因となります。将来には薬剤耐性菌による死亡は、がんによる死亡を上回ってしまうことが危惧されています。
薬剤耐性菌は、腸内で常在菌ともなりうる大腸菌などの腸内微生物が多いことが知られています。ペニシリンなどの抗生物質を分解する酵素のひとつにESBLs(基質拡張型β-ラクタマーゼ産生菌)があります。現在、ESBLs(基質拡張型β-ラクタマーゼ産生菌)を産生するESBL産生大腸菌は、最も多くみられる薬剤耐性菌のひとつです。そのほか、強力な抗菌薬であるカルバペネム薬を分解するCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)などの超多剤耐性菌も出現しています。これら薬剤耐性菌は、医療施設だけでなく健康な人からも検出されます。2018年には過半をアジアから3,000万人を超える訪日旅客者数を数え、2020年にはオリンピック・パラリンピックが開催されるなど、交通のグローバル化により薬剤耐性菌を含めた感染症のボーダーレス化が進むことが考えられます。また、これら腸内微生物における薬剤耐性は、抗菌薬使用とともにヒトだけでなく、鶏、牛、豚などの家畜からも多く見られることが指摘されており、今後はOne Health(ヒト・動物・環境)のアプローチに基づき、社会全体における感染症拡散に対応することが必要不可欠となっています。
今回、私たちはプロバイオティクス製剤に、ESBLs(基質拡張型β-ラクタマーゼ産生菌)やCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)に対する薬剤耐性(β-ラクタマーゼ)の抑制、薬剤耐性遺伝子が菌同士でうつる(伝達)の抑制効果があることを世界で初めて発見しました。今後の薬剤耐性に対する新たなアプローチのひとつとなると期待しています。(Kunishima H, Ishibashi N, et al, J Infect Chemother. 2019 Nov;25(11):894-900.)。

感染症学01

 

聖マリアンナ医科大学 感染症学