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掲載日:2019年8月27日

若年女性がん患者のQOL向上を志向した卵巣組織凍結ならびに自家移植

当科では2010年からがん・生殖医療外来を開設し、妊孕性温存治療に取り組んでいます。若年がん患者に対する「がん・生殖医療」の普及と教育を志向し、2012年11月に日本がん・生殖医療学会 JSFP:NPO Japan Society for Fertility Preservation(設立代表者:鈴木直)を設立しました(http://www.j-sfp.org/【外部リンク】)。
2019年6月現在の時点で当院のがん・生殖医療外来を受診された患者数は900人を超え、妊孕性温存治療としての凍結件数は377件(卵巣組織凍結108件、卵子・胚凍結が168件、精子凍結が101件)であり国内最多です。
女性の妊孕性温存方法は、体外受精の技術を用いた卵子・胚凍結と卵巣組織凍結があります。卵子・胚凍結は不妊治療として確立された安定した技術ですが、採取できる個数に限界があります。卵巣組織凍結は卵巣を腹腔鏡下手術にて摘出し原始卵胞を多く含む皮質を短冊状にトリミングし凍結保存する方法であり、短期間で大量の原始卵胞を保存できる点で優れており、小児においては唯一の妊孕性温存方法です。

若年女性がん患者のQOL向上を志向した卵巣組織凍結ならびに自家移植01

我々の研究グループ(IVFなんばクリニック:森本義晴医学博士、橋本周博士、矢持隆行博士、近畿大学生物理工学部遺伝子工学科:細井美彦博士、イブバイオサイエンス研究所:竹之下誠博士)は、2006年からクライオサポートを用いた卵巣組織のガラス化法の開発にとりかかり、ガラス化法を用いた凍結卵巣の融解自家移植を行い、霊長類で初めて移植卵巣から採卵した卵子を用いた受精卵の獲得に成功しました(Suzuki, N.et al. : Hum Reprod 27: 2420-2429,2012.)。基礎研究をふまえ、2010年から聖マリアンナ医科大学倫理委員会によって承認された臨床試験「若年女性がんおよび免疫疾患患者のQOL向上を志向した卵巣組織凍結ならびに自家移植」を進め、本邦で初めてガラス化法の臨床応用を開始しました。2019年6月現在、108症例に対して卵巣組織凍結を施行し8症例に対して融解移植を施行しています。そのような背景をうけ、当科では国内外から毎年多くの見学者や留学者を受け入れ、がん・生殖医療の研修を行っています。また、ガラス化法の卵巣凍結技術の普及をめざし、各国で卵巣組織凍結ハンズオンセミナーを開催しています。

若年女性がん患者のQOL向上を志向した卵巣組織凍結ならびに自家移植02

現在、卵巣組織凍結は実施可能施設が限られており、全ての若年がん患者に卵巣組織凍結が妊孕性温存療法の選択肢として提示されているとは言えず、医療アクセス面での格差がその制約の一つとなっています。また、卵巣組織凍結における諸問題に対して、卵巣組織運搬デバイスの開発や卵巣組織凍結方法の改善、卵巣組織凍結時に回収される卵子凍結における問題点の解決策の検討などの基礎研究に力を入れ、国内のがん・生殖医療の発展と普及を目指しています。

 

聖マリアンナ医科大学 産婦人科学