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  3. 慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)外来

掲載日:2019年9月27日

慢性活動性EBウイルス感染症の病態解明と治療法の開発を行っています

稀な疾患である「慢性活動性EBウイルス感染症(CAEBV)」は、強い炎症が持続し、かつEBウイルスに感染したT細胞、NK細胞(用語説明※1)が腫瘍化していく進行性の疾患です。
EBウイルスはほとんどの人が成人になるまで感染を受ける、ごくありふれたウイルスです。なぜ一部の人だけがCAEBVになるのか、なぜ強い炎症や感染細胞の腫瘍化が起こるのか、その病態は明らかになっていません。また、CAEBVに対する有効な治療薬はこれまでありませんでした。血液・腫瘍内科の、新井文子教授の研究チームはこれらを解決するための研究を行っています。
これまでに患者さんのEBウイルスに感染したT細胞とNK細胞で、転写因子STAT3が恒常的に活性化していること、チロシンキナーゼ(用語説明※2)JAK1/2の阻害剤であるルキソリチニブでSTAT3の活性化を抑えると、EBウイルスに感染したT細胞、NK細胞が増えにくく、死にやすくなるとともに、炎症原因物質であるサイトカイン(用語説明※3)の産生が抑制されることを明らかにしました(図1)。つまり、ルキソリチニブは、CAEBVに見られる持続する炎症症状の改善と、EBウイルス感染細胞の腫瘍化に対し効果をもたらすと期待されます。
現在、CAEBVに対し、熱、肝機能障害などの炎症症状(疾患活動性)を確実に抑えうる治療薬はありません。CAEBVの根治療法として同種造血幹細胞移植(用語説明※4)が行われますが、すべての患者さんに行える治療ではないことに加え、移植を行う前に疾患活動性を抑えておかないと、移植の成績が悪いことが明らかになっています。

ルキソリチニブの効果が認められた場合、つまり炎症症状が抑えられた場合、患者さんの症状が改善する事に加え、移植の成績の改善とそれによる生命予後の改善が期待されます。

以上を背景とし、新井教授のグループは、聖マリアンナ医科大学、東京医科歯科大学、大阪母子医療センター、並びに九州大学病院で、疾患活動性をもつCAEBVを対象に、ルキソリチニブの有効性、安全性を評価する医師主導治験を実施しています。ルキソリチニブは骨髄線維症、真性多血症に対し、すでに承認され、使用されている薬剤です。これは、世界で初めてCAEBVを対象として、治療薬の開発のために行われる治験です。

CAEBVに対するルキソリチニブ第II相試験概要について

【CAEBVに対するルキソリチニブ第II相試験概要について詳細はこちら】


【国立研究開発法人 日本医療研究開発機構】
https://www.amed.go.jp/news/release_20190109.html【外部リンク】
【研究について】
https://www.youtube.com/watch?v=lYLXl1QmiCw【外部リンク】



図1

図1

【用語説明】

※1.B細胞、T細胞、NK細胞:
白血球の一つ、リンパ球は、B細胞、T細胞、NK細胞に分類されます。リンパ球は、ウイルスや細菌などの病原体がヒトに感染すると勢いが増し、炎症(免疫反応)を起こして病原体を抑え、それらを駆逐します。


※2.チロシンキナーゼ:
細胞内に存在するリン酸化酵素。チロシンキナーゼが細胞内の蛋白質をリン酸化する事で、重要な情報が核へと伝達されていき、細胞の運命 (生死、蛋白質の産生など) が決まります。


※3.サイトカイン:
炎症(免疫反応)の原因物質の一つ。T細胞、NK細胞は勢いが増すとサイトカインを産生し、免疫反応を起こして身体を守ります。しかし過剰に産生されると高熱などの炎症症状が続くほか、内臓の障害の原因になることがあります。


※4.同種造血幹細胞移植:
大量化学療法や全身放射線照射などを組み合わせた治療の後に、健常人由来の造血幹細胞を輸注(移植)し、患者さんの造血および免疫系を健常人由来の造血・免疫系に置き換える治療法です。




【この研究に関するお問い合わせ】

聖マリアンナ医科大学 血液内科
新井 文子
http://hema.marianna-u.ac.jp/