聖マリアンナ医科大学大学院 医学研究科 応用分子腫瘍学 Department of Translational Oncology 臨床と基礎研究の架け橋:乳がんを中心に、がんの臨床に還元できる研究をテーマに取り組んでいます。

研究者や企業の皆さまへ

私たちは乳がんを中心に、がん治療の基礎となるメカニズムについて研究をしています。おもなテーマはDNA損傷修復と細胞周期制御で、特にその中でのユビキチン修飾の役割に注目しながら、これらの径路をターゲットにした化学療法において、その薬剤感受性を左右する機序を解析しています。オープンな研究環境を目指しておりますので共同研究の可能性や研究資材など、興味のある方はぜひ御連絡ください。

くわしい研究内容については「研究内容」の頁も御覧ください。

研究テーマと臨床との関連について。

ユビキチン修飾

細胞内には500近いROC (Rbx)-Cullin複合体を含む、1000を超えるRING型ユビキチンリガーゼが存在すると考えられています。リン酸化酵素(キナーゼ)が500程度であることを考えるとユビキチン修復が細胞の中でいかに重要な役割を果たしているかが推測されます。近年、トラスツズマブをはじめ、がんに対する分子標的治療薬として臨床に登場してきている新薬の多くがキナーゼを標的にしていますが、現在、欧米を中心にたくさんの企業がユビキチン径路、とくにユビキチンリガーゼとプロテアソームを標的とした薬の開発に取り組んでおり、近い将来がん治療にも、この径路に関わる新薬が多数登場してくることが予想されます。プロテアソーム阻害剤のひとつであるボルテゾミブはすでに多発性骨髄腫の治療薬として臨床で高い効果を認めています。この様な観点から、ユビキチン径路の基礎研究はがん治療のニーズにあった重要な研究と位置づけられます。

がん発症とBRCA1

乳がんのおよそ5-10%は家族性に発生する家族性乳癌で、このうち半数程度がBRCA1あるいはBRCA2の変異によって生じるものと考えられています。米国では一般女性の500-800人に1人がBRCA1変異のキャリアであり、変異キャリアの生涯におけるがん発症率(浸透率)は乳がんが65-85%、卵巣がんが16-60%と、とても高率です。男性でも前立腺癌や膵癌のリスクが上昇します。BRCA1は家族性乳がんだけではなく、散発性(家族性ではない)乳がんにおいても重要です。乳がんの10-15%をしめ、予後不良なbasal-like乳癌もプロモーターのメチレーションやタンパク質レベルでのBRCA1の不活性化が原因と考えられているからです。これらのがんではBRCA1機能異常によるDNA損傷修復不全が化学療法のターゲットとして注目されています。

BRCA1/2によるDNA相同組換え修復と化学療法感受性

BRCA1とBRCA2はDNA2本鎖切断(DNA double-strand break: DSB)における相同組換え修復に必須で、BRCA1/2異常によって生じたがんはDSBの修復異常を有することから、これを標的とした化学療法としてプラチナ製剤とPoly(ADP-ribose) polymerase (PARP)阻害剤が注目されています。いずれもBRCA1/2変異乳がん、あるいはトリプルネガティブ乳がんを対象とした臨床試験で良好な結果が得られ、期待が高まっています。PARP阻害剤の作用機序としてSynthetic lethalという効果が提唱されています(図)。また、BRCA1とBRCA2に変異のある乳癌、膵癌および卵巣癌において治療として用いたシスプラチンに起因する2度目の変異によってBRCA1あるいはBRCA2のback mutation (もとの野生型に戻ってしまう変異)やreading frameの回復がおこることが薬剤耐性獲得機構として報告され、 DNA修復能と薬剤感受性の密接な関係が明らかとなっています。この様な背景からBRCA1/2をはじめとしたDNAの相同組換え修復に関わる遺伝子機能の解析は化学療法の開発や感受性評価の上できわめて重要となっています。私たちはBRCA1がユビキチンリガーゼであることを世界に先駆けて報告し、この酵素活性の生物学意義を解析してきています。最近の研究から、この酵素活性はいくつかの種類のDNA損傷性抗癌剤に対する感受性の鍵を握ると考えています。

 

特 許 (発明者)

  • Xiong Y, and Ohta T.「Isolated DNA encoding cullin regulators ROC1 and ROC2, isolated proteins encoded by the same, and methods utilizing the same」
    PCT International Application Number 09/541,462, filed March 31, 2000.
  • 太田智彦 BRCA1-BARD1経路を用いた癌抑制方法 (Carcinostatic method using BRCA1-BARD1 pathway)」
    PCT 国際公開番号 WO 2005/073379 A1、公開日2005年8月11日。
  • 太田智彦、呉文文 RNAポリメラーゼの共通サブユニットをユビキチン化する方法 (METHOD FOR UBIQUITINATION OF CONSENSUS SUBUNIT IN RNA POLYMERASES.)
    PCT 国際公開番号WO2007046538、公開日2007年4月26日。
  • 太田智彦、佐藤工 Functional interaction between BRCA1 and HERC2, a large protein deficient in rjs/jdf2 mice」国際公開名称:METHOD FOR PREVENTION OF TUMOR(癌の抑制方法)
    PCT 国際公開番号 WO2007/069795、公開日2007年6月21日。


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応用分子腫瘍学
荒木由香