Q&A

Q&A体験談

大学院を3年間で修了するということ(速水 亮介)

 私がニューヨークのコロンビア大学に基礎医学研究の留学に来て、ちょうど一年になります。大学院時代の経験を生かしながら更なる実験技術・成果を求め、さらには異文化に触れ充実した日々を送っています。私は平成12年に医師免許を取得し、初期臨床研修を修了と同時に平成14年4月に大学院に入学しました。医学研究は病気の解明・治療において、必要不可欠なものであり、その最先端の環境が整うのが大学院であるのだという素人的な考えで、入学を決意しました。3年間で修了できる制度があると聞いたときは、自分もそうなりたいと思いながらも、できるとは思っていませんでした。二年生から2年間のベットフリーを頂き、研究に没頭することが出来ました。ただ、もともと基礎医学は苦手でしたので相当苦労しましたし、やらなければいけない量も多く、つらいと思うことも多々ありました。しかし、ベットフリーでしたので臨床をやりながら研究している先生方と比べたら、大変ではなかったなと今は思います。そうしているうちに、指導教員にも恵まれ、論文もCancer Researchという著名な雑誌に掲載され、私は3年間で大学院を修了することが出来たのです。

 修了することは大変ですが、得るものも多くあります。まず最も大きいのは、やはりお金です。修了したら、一年分の学費が浮いた上に、助手として採用されたため、大学からの給与もいただけるのです。約400万円の違いになっています。大学院在籍中でも、外勤や当直をしていたので、収入は十分でした。そして、権威ある雑誌に掲載されたおかげで、コロンビア大学という一流大学に留学することが出来たのです。しかも、医学部卒後6年目で。こんなに早くに留学が出来るとは思ってもいませんでした。あまり臨床に携わっていないという不安はありますが、どちらも中途半端にするよりは集中して研究を身につけたほうが良いと思っています。研究をしていることで、様々な文献を読み、臨床に関する視野も広くなっていると感じています。さらに、留学することで異文化に触れ、世界のトップクラスの中に身をおけて、見聞を広げることが出来ました。同時に、聖マリアンナ医科大学の現有研究設備は世界のトップクラスとそれほど差がないのではないかというのも実感しています。ただし、研究環境の規模は桁違いです。それから、これは3年間で卒業できたこととはあまり関係ありませんが、研究を始めてから時間を有効に使えるようになりました。研修医の頃はもちろん、臨床においてはただ仕事に追われる毎日でした。研究はやらなければいけないことがたくさんある中で、いかに効率よく数多くの結果を出せるかが大切でした。ベットフリーの2年間で、計画性をもって時間を有効に使うことが身についたことは、大学院に入って最もよかったことかもしれません。私は大学院を3年間で修了できたことを本当に幸せに感じています。さらに、大学院で学べたことで研究の知識や手技を覚えただけでなく、自分自身を高めることが出来たと思っています。

大学院に入学して(匿名)

 私は、臨床薬理学の大学院に進みました。大学院4年間は、救命での内科のシニアローテーション半年から始まり、その後研究を2年間ベットフリーで行い、残りの1年半は臨床に戻り4年間を終えました。今後も続けていく長い臨床経験の中で、研究期間はほんの短い2年間でありましたが、実験、海外での発表、海外雑誌の掲載という貴重な経験をさせていただき、自分にはとても意義のある時間であったと思い大学院に進学してよかったと思います。

学位を取得して(有馬医院 有馬啓)

 私は,大学の研究生制度(論文博士)を利用して平成17年1月に学位を取得しました。医師になって12年目でした。

 医学部を卒業後,大学病院で2年間一般外科の研修をした後、学位取得のため大学院に進みました。しかし大学院の2年目の夏に父が倒れ,やむなく大学院を退学して,実家の診療所を継ぐ事になりました。自分は腫瘍学に興味があり,一般外科に進み,大学院では腫瘍の遺伝子学についての研究を希望していましたが、父が倒れたことでその研究はあきらめることになりました。

 診療所では,毎日忙しい外来が朝から夕方まで続き,4年目の私には,患者さんをこなすだけで大変な毎日が続きました。仕方のない事でしたが,何のために医師になったのか,つらい外科の研修時代はなんだったのか,この先30~40年もこの診療所で毎日外来をこなすのか,と少し自暴自棄になっていました。そんな診療所に戻って2年目(医師6年目)のときでした。第1外科時代の先輩が,研究生の制度を利用して,研究をしてみないかと誘ってくださいました。その時は,この先、研究は僕には必要ないと思いましたが,外来だけの毎日から逃げ出したいこともあって,研究生として週1度研究できるようにお願いしました。研究を再開しましたが,週1回でははっきり言って実験は進みませんでした。しかし,指導医の先輩が少し時間がかかってもできるテーマをくださり,6年かかりましたが学位を取得できました。

 学位を取得しても何も変わらないだろうと思っていましたが,私にはかなりの変化がありました。ひとつは医師としての自覚の高まりです。日々の診療においても,外来で患者さんをこなすだけでなく,診断学,治療学,基礎医学など,診療に関係のあるものすべてにおいて,より深く取り組むようになりました。それから、開業して1人で診療をしていると,自由に診療できる反面、全てひとりで決断しなくてはならず,その責任は自分で取らなくてはならない、つまり「自由、決断、責任」ということに対する不安があります。研究生として医学を学んだことをきっかけとして、その後も常に,日々進歩する医学を,医師として医学者として学び追究することができるようになりました。可能な限り学問を追究することが、その「自由、決断、責任」からの不安をなくしてくれることが分りました。

 学位を取得し,医師としてより自覚を持ち、今後も絶えず努力することで,地域医療に貢献することができ,そして自身の医療を向上することができると思います。論文博士(乙)で学位を取得するには、いろいろな困難があり、また多くの人の協力が必要です。なんらかの事情で大学院に進むかどうか迷っている人も多くいると思いますが、大学院は学位を取るにはやはり最短の道ですし、より充実した研究、経験ができます。そこで日常診療とは異なった角度から医学を学ぶことにより、医師としての意識がより向上し、日本の医療全体の活性化に、つながっていくと思います。是非、大学院に進まれることをお薦めします。