聖マリアンナ医科大学 SCHOOL GUIDEBOOK 2020
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44新薬の開発には、患者さんや医師との連携が欠かせないのですね?HAMの新薬開発は現在はどのような段階ですか? 新薬の開発には3つの段階があり、いま第2段階が終わったところです。新薬の有効性が証明できたため、2017年6月からは製薬企業に開発をバトンタッチして第3段階の治験が始まりました。現在、順調に進んでいるところです。 第3段階の治験も2019年の初めには終わると思います。そこからデータをまとめて新薬の承認申請を出すので、順調にいけば2020年の東京オリンピックの頃には、新薬として承認されるでしょう。希少難病の新薬開発において難しさはどこにありますか? 希少難病の新薬開発では、それまで治験が実施されていないのでデータをとるにもひな型がありません。ですから、どんなデータをとれば良いのか調べるところから始まるのです。そのために、あらゆるデータが必要です。幸い私はHAM専門外来の診療をとおして豊富にデータを蓄積していました。それでも、医師主導治験を開始する前に必要な面談の準備には3ヵ月ほどかかり、その間、私はほとんど眠れない日々が続きました。研究所のスタッフも夜遅くまで働いて準備を手伝ってくれました。そこが製薬企業本学を目指す方にメッセージをお願いします。Doctor 1山野嘉久(やまのよしひさ) 神経内科専門医、リウマチ内科専門医、総合内科専門医。ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)による神経難病(HAM)の専門家。 1993年、鹿児島大学医学部卒。同大学の神経内科で神経難病HAM(HTLV-1関連脊髄症)の研究に携わる。2000年から3年間、NIH(アメリカ国立衛生研究所)で世界中から集まった医師と研究に取り組む。帰国後、2007年より聖マリアンナ医科大学に勤務。難病治療研究センターにおいて、関東ではじめてのHAM・キャリア外来を開設するなど、希少難病の診療にあたりながら、HAMの新薬開発を進める。「第18回国際ヒトレトロウイルスHTLV会議」で会長を務める山野教授共感が広がります。ひとつの難病をとことん研究する先生はあまり多くありませんが、私が研究することで「山野ががんばっているなら、協力しよう」という善意が広がり、それに支えられて、私の研究はなりたっているのだと思います。 国内だけではありません。2017年3月にはHTLVや関連ウイルスの研究者が世界から集まる「第18回国際ヒトレトロウイルスHTLV会議」が東京で開催されました。基礎研究から臨床研究に至るまで、最新の知見や研究成果が発表され、世界の研究者が交流することでHAMのような希少難病の新薬開発にはずみがつくのはうれしいことです。床性能試験が必要ですが、企業はその費用を回収できないので二の足を踏んでいる状態です。そこで、遠くに住んでいて来院できない患者さんの場合は、当センターと患者さんの近くの診療所とが病診連携をとって情報や検体を提供してもらいます。その検査結果をフィードバックして診療の相談にも応じることが可能です。 私は厚生労働省の難病研究班の責任者も務めていますが、全国の治療拠点になる先生方と協力して全国的な診療体制の構築を進めています。患者さんの情報を集めるレジストリーを構築し、本学の難病治療センターはその事務局になっています。情報をしっかり集めて解析すれば、研究成果を患者さんの臨床にフィードバックすることができます。全国的な診療体制を構築するために必要なのは、患者さんと一緒になって、ひとつひとつデータを示すことです。そうすれば、研究の必要性を納得していただくことができて、理解とではなく、医師主導で行う治験の難しさです。基本的にすべて自分たちで資料を作成しなければならず、厚生労働省に説明にいく際には資料を段ボールに詰めて持って行くほどの量になりました。 なぜそこまでできるのか?と問われたら、HAMの患者さんの期待を一身に背負っているという使命感と、これが自分のライフワークだと思い込んでいることでしょうか。私はこういう仕事が好きなのだと思います。だから全く嫌だという気持ちはなく、むしろ楽しんでやっています。この研究をきちんとやれば、その先に可能性が開けることが分かっているので、そこに望みをかけるしかない。そこに到達する過程を楽しんでいます。 私の場合は、臨床の現場で患者さんが苦しんでいる様子を見て、その苦しみを共有して、この病気をなんとか治したいという想いから研究がスタートしました。医師になる方は、人の苦しみや気持ちに共感できることが大切だと思います。もし、そういう世界に自分が向いていると思うなら、医学部を目指してください。 苦しんでいる患者さんと向き合ったとき、何らかのアクションを起こす人と起こさない人がいます。目の前にまったく道が見えないような状況でも、それを切り開いていくような方にこそ、医師になって欲しいと思います。熱意が共感を呼び全国的な診療体制へ可能性が見えているからどんな苦労もいとわない教員インタビュー

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