本教室について

研究室紹介

再生医療の発祥地

 当研究室は、1973年、荻野洋一初代教授による形成外科の設立と同時に併設されました。当時研究室の初代責任者であった熊谷憲夫前教授と仁科博道講師、間瀬富美子助手らの精力的な研究努力により、1985年に日本の再生医療の先駆けとなる培養表皮の臨床応用に国内で初めて成功し、広範囲重症熱傷患者への革新的治療法を提案しています。
 その後、1987年に当時、井上肇 講師が研究室を引き継ぎました。自己再生培養表皮を院内はもとより、他施設からの依頼にも応じるだけのシステムが構築されています。また、2010年に、聖マリアンナ医科大学では唯一のクリーンルーム施設を医局内に設置し、臨床応用に十分対応出来うる無菌的な培養表皮の製造環境設備を整えました。
 荻野洋一(初代教授)、石田寛友(二代目教授)、熊谷憲夫(三代目教授)そして、梶川明義(第四代・現教授)と変遷してきましたが、当医局の伝統は脈々と次世代へと受け継がれ、発展を遂げています。

 2009年に当時、井上 准教授が、再生医療の実用化と普及を目指して、当医局に幹細胞再生医学(Angfa寄附)講座を設立しました。したがって、当研究室では、形成外科領域に関連する研究テーマの他にも、種々の研究を行っております。以下に、主な研究について紹介させていただきます。

 

■ 主な研究紹介

(1) 皮膚組織再生の臨床応用に関する研究
 当医局では、広範囲熱傷患者も含め700症例を超す植皮術が行われてきました。
現在では、熱傷のみならず白斑や巨大母斑などの広範囲皮膚醜形疾患の治療を目的とした培養表皮移植を行い、良好な結果が得られています。

(2) マイクロサージャリー(微小血管外科)研究
 臨床で行うマイクロサージャリーのテクニック習得のために、医局内P1レベル動物実験室での練習も行う体制が整っています。この技術を習得後は、微小循環の実験の皮弁作成にも役立てています。

(3) 微小循環に関する研究
 マイクロサージャリーにおいて、血行の維持は組織再接着の成否を左右するため、血管作動物質の発現ならびに制御を研究することは極めて重要です。細血管の血行は、様々な血管作動物質で制御されています。特に、エンドセリン・一酸化窒素・プロスタノイドなどの血管収縮或いは拡張に関わる中心的メディエーターの研究をしています。

(4) 創傷治癒
4-1. 多血小板血漿 (Platelet Rich Plasma; PRP)を用いた再生医療の研究
 PRPを用いた治療法は、自己の血液から濃縮した血小板を皮膚潰瘍の創部に適用し、潰瘍を治療する新しい再生医療技術の一つです。
 PRPの組織再生効果は知られていますが、難治性皮膚潰瘍への適応は、国内で初めて2011年9月に聖マリアンナ医科大学((先200)第1号)が、第二項先進医療技術(暫定先進医療A)65種類, 828件のうちの一つとして、厚生労働省に認可されました。PRPの医療応用の可能性を模索する研究をしています。

4-2. 被覆材の機能評価等、臨床応用に関する研究
 創傷被覆材の体液吸収性についての検証システムを構築することは、創部への適切な被覆材の選択をする上で重要な判断基準となりえます。そこで、被覆材の吸収性と吸収形態を検証出来る評価系を開発し、適切な被覆材を選択することが創傷治癒に大きく影響する可能性が示唆されました。

(5) 毛髪再生
組織構築には、様々な体性幹細胞の分化制御に関わる因子やメカニズムの解明が
必要です。臨床応用に向けた毛髪組織再構築の研究をしています。

(6) 気管再生・肺再生の研究
 呼吸器や頸部の腫瘍悪性化に伴う失声を回避するため、動物モデル(ビーグル犬)での気管と肺の両方の組織再生を検証しました。その結果、肺再生を確認すると共に、呼吸器外科と共同開発した完全体外作成型再生気管(特許申請中)により長期生存を確認しております。

 

■これまでの研究成果

(1) 熱傷研究
 一酸化窒素(NO)は、多くの生命現象に関与することが現在までにわかっています。当研究室では、NOならびにNO関連物質が熱傷時の血管透過性亢進反応への主要因子であることを突き止め、熱傷惹起性炎症反応機構への関与を発表しております。

(2) 血管再生の研究
 組織再生において血管新生は必須の生体反応です。移植医療においても、移植臓器の血行回復はその後の組織生着を左右するため、血管新生機構の研究意義は大きいのです。当研究室ではドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System ;DDS)技術を用いた阻血部位への薬剤ターゲティングによる血管再生治療の可能性を検討し、生体のサイトカインバランスを崩さない血管新生を可能にしました。

(3) 色素幹細胞と色素再生の研究
 毛包のバルジ領域に存在する幹細胞は表皮・脂腺・毛包・色素細胞への多分化能を有しています。移植医療の現場において幹細胞による皮膚の完全再生の可能性を模索するために、幹細胞の増殖や分化に関与する遺伝子の発現や、分化誘導因子の解明を試みています。