患者の皆さまへ

良性腫瘍

良性脳腫瘍

頭蓋内に発生する腫瘍のうち、脳実質以外からできた腫瘍はほとんどが良性です。最近は頭痛、外傷、脳ドックなどで偶然発見されることもあります。基本的に神経症状や頭痛・嘔吐などの頭の中の圧が高い(頭蓋内圧亢進)症状がなければ経過観察となることがほとんどです。神経症状や頭蓋内圧亢進症状があれば、基本的には摘出し完治を目指します。また全摘出が困難な場合、摘出後に経過観察し、必要あれば定位放射線療法(ガンマナイフやサイバーナイフ)を追加します。

 

髄膜腫

全脳腫瘍の4分の1を占める最も頻度の高い良性腫瘍です。中年以降の女性に多い傾向があります。髄膜という脳を包む膜から発生します。

 

 

脳の表面にあれば比較的容易に摘出可能ですが、大きくなると難しくなります。脳深部の頭蓋底では、重要な神経や血管が走行するので、大きさに関わらず摘出は最高難度の手術になります。高い専門性と熟練を要する頭蓋底技術を要します。3Dプリンターによるモデルやコンピューターシミュレーションなど使い術前検討を行い、安全確実な手術のため術中電気生理モニタリングやナビゲーションシステムを用い高性能手術顕微鏡で摘出術を行い良好な手術成績をおさめています。また髄膜腫は血流豊富な腫瘍で、摘出に際し出血しやすい特徴があります。そのため術直前に腫瘍の栄養血管を血管内治療指導医がカテーテルで塞栓し、出血の少ない安全な手術を行います。

当科は全国でも数少ない頭蓋底外科教育研修施設です。お気軽にご相談下さい。

 

 

 

 

下垂体及び下垂体近傍腫瘍

下垂体は、脳からぶら下がるように存在する1cm程度の器官で、ホルモンを分泌しています。成長ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモン、オキシトシンなど分泌し、視床下部や標的器官と共に生体機能を維持しています。

 

下垂体腺腫

下垂体に発生する代表的な腫瘍で、脳腫瘍の中では3番目の頻度になります。下垂体前葉の細胞から発生する良性腫瘍です。

症状は2種類あり、一つはホルモン過多による症状、もう一つは圧迫によるホルモン分泌低下と視神経や眼球を動かす神経の障害です。

ホルモン分泌が過剰になる疾患には成長ホルモン産生腺腫(巨人症、先端巨大症)や副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫(クッシング病)などあり、手術を要します。ホルモン分泌低下があればホルモン補充療法を行います。腫瘍が視神経に影響を及ぼし耳側半盲(外側の視野が欠ける)が出現したり、眼球運動障害による複視(二重に見える)など出現すればホルモン分泌過剰がなくとも手術を必要とします。プロラクチン産生腺腫はカベルゴリンなどの薬物療法が第一選択です。しかし、挙児希望女性で小型の腫瘍であれば完全切除で薬物療法を不要にすることもあります。脳ドックなどで偶発的に発見された場合は、視神経を挙上していれば手術が勧められます。小型で無症状の場合は定期的な経過観察となります。

 

下垂体腺腫に対する外科治療では、従来上口唇下粘膜を切開して鼻腔に到達する方法が用いられましたが、現在は鼻腔内粘膜を一部切開して病変に到達する経鼻法が主流です。さらに以前は顕微鏡を用いておりましたが、より侵襲の少ない内視鏡で行われつつあります。当院でも最先端のハイビジョン内視鏡や内視鏡固定具、ナビゲーションなどを駆使して下垂体機能を温存しつつ、最大限の病変摘出を目指しております。腫瘍の性状によっては開頭術が必要な場合もありますが、豊富な経験に基づき症例に応じて適切で安全な方法を選択しています。

 

 

 

頭蓋咽頭腫

全摘出で完治することもありますが、重要構造の多い脳深部にあるため極力合併症の出現を押さえつつ最大限の摘出を目指します。良性腫瘍であるにもかかわらず残存した場合には短期間に再増大することが多く、治療の難しい腫瘍のひとつです。術後定位放射線療法や、視床下部、下垂体に対するホルモン補充を行うなど専門的な治療マネージメントを必要とします。

 

 

 

ラトケ囊胞

腫瘍とはやや趣が異なりますが、発生段階で遺残した囊胞(液体の入った袋)が大きくなり、正常下垂体や視神経への圧迫や、炎症を生じホルモン分泌障害を来すことがあります。頭痛や視機能障害を来している場合には手術を行います。ほとんどの症例で内視鏡で囊胞を開放し内溶液の排除と洗浄を行うことで症状が改善します。

 

妊娠末期の女性で、視力視野障害を認め、MRIではトルコ鞍部に2cmの病変を認めます(図1)。早期摘出術を勧められ来院されました。下垂体腺腫でしょうか?

妊娠末期の下垂体腫大で、リンパ球性下垂体炎と診断しました。ステロイド治療で直後より視力視野障害は改善し、無事出産されました。

 

20代女性で月経不順と乳汁分泌を認め、PRL60ng/mlでした。他院でプロラクチン産生腺腫の診断でカベルゴリン(前述)を処方されました。MRIを図2に示します。下垂体腫瘍でしょうか?

 

内分泌検査を行うと原発性甲状腺機能低下症あり、甲状腺ホルモン剤の内服で症状は改善しました。

これらの症例のように、下垂体には腫瘍のみが発生するわけではなく、また内分泌器官であるために脳神経のみらならずホルモンの幅広い知識を有していることが重要で、治療の成否を分けることになります。

下垂体専門外来を設けております。お気軽にご相談下さい。

 

 

 

聴神経腫瘍(神経鞘腫)

脳腫瘍の中では4番目の頻度で1割を占めます。

聴神経は聴くための蝸牛神経と平衡感覚を担う前庭神経からなり、これらから発生した腫瘍が聴神経腫瘍です(大部分は前庭神経鞘腫)。難聴、耳鳴り、めまいで発症することが多く、進行すると顔面麻痺や顔面知覚障害、さらに歩行障害などを来します。また時に突発難聴で発症することもあります。突発性難聴の診断で再発を繰り返す場合には本疾患の存在を考慮する必要があります。

ほとんどが良性でゆっくり成長するため経過観察になることもあります。

手術を行うか否かは、腫瘍の大きさと聴力障害の程度、年齢、全身状態を考慮します。小型で有効聴力がある場合には聴力温存手術を行います。腫瘍が大きい場合は、脳幹圧迫により生命が脅かされることを防ぎます。

聴神経腫瘍の手術は神経機能との戦いで、術中電気生理モニタリングを駆使しつつ、可能な限り顔面神経機能の障害を避けながら最大限の摘出を目指すため脳神経外科手術の中では高難度の手術です。

 

一方ガンマナイフなどの放射線療法も有効な治療で、手術と組み合わせて行われることもあります。しかし治療効果が劣る症例や照射後の一過性増大、水頭症、顔面のしびれなどの問題もあります。

当科は国内有数の治療実績を持つ施設です。専門医にご相談下さい。