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研究成果

  • 骨関節分野 関節疾患の原因の解明及び発症の予防・治療方法 
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  • マウス胚性幹細胞からの軟骨細胞の分化誘導と軟骨細胞を用いた新規治療法の開発
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  • コラーゲン誘発性関節炎マウスに対するjunD遺伝子療法
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  • 高齢者関節疾患におけるヒトTh1細胞特異的転写因子Txkの発現の検討とTxkを用いた新規治療法の開発
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骨関節分野 関節疾患の原因の解明及び発症の予防・治療方法
(H12-長寿-031)

主任研究者 鈴木 登 聖マリアンナ医科大学免疫学・病害動物学・教授


研 究 要 旨
格的な長寿・高齢化社会を迎えた本邦においては、高齢者の快適な生活を維持・増進できる施策が望まれている。多発関節痛・関節炎をもたらす関節リウマチ(RA)や変形性関節症(OA)などの関節疾患は高齢者の日常的な活動性を低下させ、介護の必要度を増加させる。高齢者の関節疾患の原因解明と予防・治療法の開発は高齢者の生活の質の改善と高齢者社会の活性化に必須である。
 RAではヘルパーT(Th)細胞が関節滑膜に浸潤して発症に関与する。関節炎の発症にはTh1型細胞とTh2型細胞とのアンバランスが存在しその病態を形成する。コラーゲン関節炎ではTh2型細胞の機能過剰により抗コラーゲン自己抗体が産生され関節炎発症に至る。我々の同定したTxkはTh1細胞特異的な転写因子で、txk発現ベクターの遺伝子投与は関節炎マウスのTh1/Th2バランスの是正により関節炎の軽快に働いた。同様にヒト滑膜細胞の活性化の抑制に働くjunD遺伝子の投与は転写因子AP-1の活性を抑制することでモデル動物での関節炎鎮静化に働いた。今後、高齢者関節炎においてjunDやtxk強制発現が実際に治療効果を持つのかを検討する必要がある。
 β1インテグリンシグナル分子であるCas-LのRAでの役割を検討した。関節炎マウスにおいてCas-L蛋白発現とそのチロシンリン酸化がともに亢進していた。Cas-L陽性リンパ球は関節炎を生じたマウスの関節のみならずRA患者においてもCas-L陽性リンパ球は炎症関節に多数が浸潤していた。Cas-LはRAの炎症細胞浸潤に重要な役割を果たしていることが示された。
 RO52/SS-A自己抗原に対する自己抗体はRAやシェーグレン症候群患者血清中に特徴的に同定される。このRO52/SS-A抗原が生体内で果たす役割について検討を行った。RO52/SS-A抗原はDISC(Death Induced Signal Complex)でのカスペース8の活性化に関与し、アポトーシス誘導に重要な役割を果たしていた。このようにRo52はアポトーシスにも繋がるシグナル経路の新しい構成成分であるという結果は、高齢者の自己免疫病の病態解明や新しい治療法開発のために重要である。
 マウス胚性幹細胞からbone morphogenetic proteinを用いて軟骨細胞を分化誘導することができる。変形性関節症マウス膝関節に軟骨細胞を移植すると、膝関節内に移植軟骨細胞が生着した。大腿骨欠損部にこの軟骨細胞を移植すると骨形成が認められた。今後ES細胞から分化誘導した軟骨細胞を用いて高齢者関節障害に対する再生医療の検討が可能になった。

分 担 研 究 者
森本 幾夫
東京大学医科学研究所・教授

田中 廣壽
東京大学医科学研究所・助教授

研 究 目 的
邦では本格的な長寿・高齢化社会を迎え、高齢者の快適な生活を維持・増進できる施策が望まれている。多発関節痛・関節炎をもたらすRAやOAなどの関節疾患は高齢者の日常的な活動性を低下させ、介護の必要度を増加させる。高齢者の関節疾患の原因解明と予防・治療法の開発は難治性疼痛の緩和につながり、高齢者の生活の質の改善と高齢者社会の活性化に必須である。
 これまでの内科的治療ではRAのみならずOAにおいても関節病変は確実に進行する。本研究ではこれらを克服するために新たな治療的アプローチを確立し、さらに各種薬剤でRA、OAの治療法の確立をめざす。
 RAでは免疫異常として関節に浸潤するヘルパーTリンパ球が特徴的である。ヘルパーT細胞は、産生するサイトカインの種類によってTh1型とTh2型に分類される。Th1細胞はインターロイキン(IL)-2, 腫瘍壊死因子(TNF)-β、インターフェロン(IFN)-γなどを産生し、細胞性免疫に関わる。一方、Th2細胞はIL-4, IL-5, IL-10, IL-13などを産生しB細胞の抗体産生をもたらす。Th1/Th2細胞は、それぞれのサブセットの細胞が産生するサイトカインにより互いの活性を制御し合いながら生体の免疫応答のバランスを取るように働く。Th1/Th2細胞のバランスの崩れがRAをはじめ自己免疫性疾患の発症や病態形成に関与する。新規治療法の開発のためには、Th1/Th2細胞の分化を制御する機構を明らかにすることが重要であり、我々はこのTh1/Th2細胞の分化に重要な鍵を持つTxkに着目し研究を続けている。TxkはTec familyチロシンリン酸化酵素の一つで主にTリンパ球に発現する。ヒトTh1、Th0細胞に特異的に発現し、IFN-γの産生を誘導し、Th1細胞の機能発現に重要な転写因子として働く。
 昨年度にTxkの発現を抑制する目的でドミナントネガティブTxkの作製を行った。本年度は関節炎モデル動物としてコラーゲン誘発関節炎を作成しTxk発現ベクター投与の治療応用の可能性を検討した。この遺伝子治療はRAの慢性化を阻止できる最も有望な治療法と期待される。
 高齢者における関節疾患では関節軟骨に異常をきたす場合が大多数で、外科的治療法を除けば、臨床的にはこれら軟骨の異常に対する有効な治療法はないといっても過言ではない。実際、高齢者関節病変の治療には難渋する場合が多い。さらに近年の再生医学・医療の進展に伴い、再生医療の骨・関節疾患での応用を目指して、マウス胚性幹細胞より軟骨細胞を分化誘導した後、これを変形性関節炎のモデル動物に投与し、その生着と治療効果を検討する。
 RA滑膜細胞では転写因子の発現に異常があり、AP-1過剰活性化がRA病態の進行、悪化に関与する。JunDがヒト滑膜細胞においてAP-1過剰活性化を抑制できることを報告した。本年度はコラーゲン関節炎モデルマウスを用いてJunD発現の是正が関節病変の沈静化に結びつくのかを検討する。これら転写因子の異常活性化機構を解明し、転写因子活性を効率よく抑制する手法を開発する。
 RO52/SS-A自己抗原に対する自己抗体は関節リウマチやシェーグレン症候群患者血清中に特徴的に同定される。このRO52/SS-A抗原が生体内で果たす役割については全く分かっていない。そこでRAやシェーグレン症候群患者のアポトーシス異常にRO52/SS-A抗原が果たす役割について検討を行なう。β1インテグリン下流のシグナル分子であり、T細胞の活性化に続くIL-2産生および細胞遊走能に重要なCrk-associated substrate lymphocyte type(Cas-L)のRAでの病態なかでも炎症細胞浸潤における意義を明らかにする。
 本研究では高齢者RAとOAを対象に関節局所での免疫異常の解析および滑膜細胞増殖異常に関わる転写因子の解析を行なう。その知見に基づいてそれらの是正方法の確立を目指して研究を進める。さらに最近の再生医学の進歩にも配慮した研究を行う。

研 究 方 法

1.マウス胚性幹細胞からの軟骨細胞の分化誘導と軟骨細胞を用いた新規治療法の開発
 マウスES細胞は胎児線維芽細胞とleukemia inhibitory factor(LIF) と共培養することで多分化能を維持したまま継代できる。このES細胞をゲラチンコートディッシュ、あるいはフィブロネクチンコートディッシュ上で様々な濃度のBMP-2、BMP-4とともに培養した。軟骨細胞を特異的に染色するアルシアンブルー染色は常法に従い行った。II型collagenの蛋白発現は免疫組織染色を行った。
 変形性関節症のモデルとして、膝関節内へ1規定塩酸10 µlを注入した。注入後3-7日目に膝関節を回収し、組織学的に検討した。更に、一部の実験ではES細胞より分化誘導した軟骨細胞 1 x 106個を関節内に移植した。移植後2週間後、同様に組織学的検討を行った。
 マウス大腿骨にドリルを用いて直径1 mmの骨欠損部を作成した。ここにES細胞より分化誘導した軟骨細胞 1 x 106個を移植し、経時的にX線写真を撮影した。

2.高齢者関節疾患におけるヒトTh1細胞特異的転写因子Txkの発現の検討とTxkを用いた新規治療法の開発
 野生型Txk発現ベクターを鋳型として突然変異体を作成した。それぞれの突然変異について目的とする変異がプライマーの中央に位置するようにデザインしたプライマー一組(センス鎖とアンチセンス鎖)とPfuTurbo DNA ポリメラーゼを用いてTxk発現ベクターを増幅した。増幅した産物をDpnI制限酵素で処理し、鋳型とした野生型Txk発現ベクターを完全消化し、目的とする変異型ベクターを回収した。目的とする突然変異がベクターに導入されたことはDNAシークエンス解析から確認した。
 DBA1J(6週令雌)に牛II型コラーゲン100µgを完全フロイトアジュバントとともに尾根部皮内に投与し、3週後に同様の追加免疫を行い、コラーゲン誘発性関節炎モデルマウスを作成した。
 コラーゲン誘発性関節炎モデルマウス作成過程の免疫前後、すなわち免疫前24時間、免疫後24時間および72時間に20µgの野生型txk発現ベクターあるいはドミナントネガティブTxk発現ベクターを筋肉内投与した。
 四肢関節の腫脹を肉眼的に計測し関節炎を評価した。各肢ごと全く変化のないものを0点とし、1指の腫脹を1点、2指以上の腫脹あるいは足全体の僅かな浮腫を2点、足全体の激しい腫脹を3点と評価し、四肢関節の点数の合計(12点満点)を関節炎スコアとした。

3.コラーゲン誘発性関節炎マウスに対するJunD遺伝子療法の検討
 コラーゲン誘発性関節炎モデルマウス作成過程の免疫前後、すなわち免疫前24時間、免疫後24時間および72時間に20µgのpRSV-CATあるいはpRSV-junDを筋肉内投与した。その他は上記と同様の方法を用いた。
 β1インテグリンを始めとする細胞表面分子の発現はマウス脾細胞を蛍光ラベル抗体で免疫染色後、フローサイトメーターにより陽性細胞率を解析した。

4.自己抗原RO52のT細胞のアポトーシスにおける役割
 RO52のN末端のGFPタグ型をPCR法にて作成した。Large Tを発現するJurkat LT細胞へのトランスフェクションはX-tream GENE Q2トランスフェクション試薬にて行った。
 アポトーシスの評価のためにフォスファチジルセリンの細胞外露出を検討した。T細胞へのPE標識Annexin Vの結合をFACSキャリバーにて解析した。
 FAS抗体刺激によるCaspase-3、Caspase-8、Caspase-9、Bcl-2、Bcl-XL、cytochrome-C、Bid、Baxの発現はウエスタンブロット法にて解析した。

5.β1インテグリン下流シグナル分子Cas-Lの関節リウマチの病態における役割
 HTLV-I Tax transgenic mouseおよび対照群としてLittermate Controlマウス (Ct)を各群3匹ずつ用いた。
細胞遊走能は各群のマウスより脾細胞を分離し、マウス内皮細胞を単層に撒いたケモタキシスチャンバーに無刺激下で遊走した細胞数を測定した。
 蛋白質発現及びチロシンリン酸化は各群のマウスより脾細胞、脾臓、リンパ節、胸腺を採取しライセートを作製後、免疫沈降に続くウエスタンブロット法により解析した。

6.倫理面での配慮
 血液、関節液、滑膜組織を含む生体サンプルの実験について患者には研究目的や趣旨を十分説明し、インフォームドコンセントを得た上で行った。さらに患者のプライバシーに関する情報の守秘義務を徹底するため個々の研究者は検体とID番号のみを用いて解析し、患者のプライバシーに関する情報が守られるように注意した。動物実験に関しては、実験前の飼育、実験中、実験後にいたるまで科学的かつ倫理的に対処し、動物の苦痛を排除するための麻酔による安楽死等の手法を用いた。


研 究 成 果 お よ び 考 案

1.マウス胚性幹細胞からの軟骨細胞の分化誘導と軟骨細胞を用いた新規治療法の開発
 マウスのES細胞株をbone morphogenetic protein (BMP)-2あるいはBMP-4を添加し、28日間培養した。培養2週間目のEBでは、軟骨細胞に特異的と考えられるアルシアンブルー陽性領域が出現した。それ以降培養を継続することで、EBのアルシアンブルー陽性領域は増大した。この細胞はU型コラーゲン陽性で軟骨細胞と考えられた。
 C57BL/6マウスの膝関節内に1規定の塩酸を注入し変形性関節症モデルとした。ES細胞から分化誘導した軟骨細胞を用いて変形性膝関節症モデルマウスの治療研究を行った。塩酸注入によりマウス膝関節は軟骨の脱落した状態になっていた。これに軟骨細胞1 x 106個を移入した。移植後2週めに関節を回収し、脱灰後HE染色を行った。一部の実験では軟骨細胞をコロイド鉄で標識した。移植後には関節面にBerlin Blue染色陽性の鉄を取り込んだ軟骨細胞の生着を認めた。移入した軟骨細胞は大腿骨関節面や膝蓋部に生着していた。長期間観察した場合にも異所性化骨を認めることはなかった。
 マウス大腿骨にドリルを用いて直径1 mmの骨欠損部を作成した後ここにES細胞より分化誘導した軟骨細胞を移植した。PBSのみを移植したマウスに比較し、軟骨細胞移植群では明らかな骨形成をX線写真上で認めた。
 従来の内科的治療では効果が期待できない進行した破壊性の関節病変に対する新たな治療法の開発を目的として、ES細胞から効率よく軟骨細胞を分化誘導する方法を確立した。これを変形性膝関節症モデルマウスに移植し関節面に生着することが明らかになった。さらにこの軟骨細胞は骨欠損部では骨形成を認めた。関節内では長期間にわたり骨形成は認められないことから、今後この差異をもたらす要因についての検討が必要である。
 マウスES細胞からBMP存在下に軟骨細胞を特異的に分化誘導することが可能になった。これを変形性関節症のモデルマウスに移植したところ関節面に移植した軟骨細胞を生着させることが出来、近い将来の変形性関節症の治療に応用可能と考えられた。今後は、より大型の実験動物を用いて関節機能の検討を行うことが必要と考えられた。

2.高齢者関節疾患におけるヒトTh1細胞特異的転写因子Txkの発現の検討とTxkを用いた新規治療法の開発
 マウス関節炎の発症をいずれかの関節の腫脹が初めて観察された時点と定義した。II型コラーゲンの免疫のみでプラスミドを投与しないコントロール群のマウスでは、最終免疫より1週目より関節炎の発症が100%に観察された。コントロールプラスミドpRSV-CAT投与群の発症率も同様で1週目より関節炎の発症が100%に観察された。野生型txk投与群の発症率は1週目で83%、4週目で83%で、野生型txk遺伝子の投与により関節炎の発症はやや低下した印象があるものの有意な影響とはいえなかった。関節炎スコアを経時的に観察すると、コントロールプラスミド投与群は1週目以降プラスミド非投与群とほぼ同等の関節炎スコアを示した。これに対して、野生型txk投与群は1週目以降、コントロールプラスミド投与群およびプラスミド非投与群より有意に低いスコアを示した。
 今回のU型コラーゲン関節炎モデルマウスにおいては野生型Txk遺伝子投与が関節炎の改善をもたらした。U型コラーゲン関節炎ではTh2細胞による抗U型コラーゲン自己抗体がその病態形成に重要なことが知られている。即ちU型コラーゲン関節炎モデルマウスはTh2細胞機能過剰と理解することができる。このような関節炎マウスに対してTh1細胞機能を増強する野生型のtxk遺伝子投与は著明な関節炎の抑制作用を示した。即ちTh2細胞機能過剰に基づく関節炎にはtxk投与によりTh1細胞機能を是正することが有望な治療法となることが明らかになった。

3.コラーゲン誘発性関節炎マウスに対するJunD遺伝子療法
II型コラーゲンの免疫のみでプラスミドを投与しないコントロール群のマウスでは、初回免疫より7週目より関節炎の発症が観察され10週目で83%、13週目で100%に達した。コントロールプラスミド投与群の発症率は10週目で91%、13週で100%であった。junD遺伝子投与群の発症率は10週目で80%、13週で90%で、junD遺伝子の投与により関節炎の発症はやや低下した印象があるものの有意な影響は与えなかった。関節炎スコアを経時的に観察すると、コントロールプラスミド投与群は7週目以降、コントロール群(プラスミド非投与群)と比べ、関節炎スコアが有意に高かった。これに対して、junD遺伝子投与群は7週目以降、コントロールプラスミド投与群より有意に低いスコアを示し、13週目以降はコントロール群よりも有意に低いスコアであった。組織学的に関節病変部を観察するとコントロール群、コントロールプラスミド投与群と比較してjunD遺伝子投与群では単核細胞浸潤も比較的穏やかであった。さらに滑膜細胞増殖、骨・軟骨破壊ともに軽微であった。さらに免疫組織染色では滑膜細胞におけるIL-1アルファとTNFベータの発現は強く抑制されていた。
 今回の検討により、JunD遺伝子治療がコラーゲン誘発性関節炎マウスの関節病変に改善をもたらすことが明らかになった。AP-1は免疫担当細胞の活性化機序にも関与することから、免疫系への影響も血清中IgG型抗II型コラーゲン抗体の力価を指標として解析した。しかしJunD遺伝子投与の免疫系への影響は認められなかった。即ち投与したJunD遺伝子は病変局所の滑膜細胞に取り込まれ、直接的に滑膜細胞の機能を制御しているものと考えられた。

4.RAやシェーグレン症候群患者のTリンパ球活性化異常にRO52/SS-A抗原が果たす役割の検討
自己抗原Ro52がアポトーシスに関係しているかどうか調べるため、様々なアポトーシス刺激後のAnnexin Vの細胞表面への結合を検討した。Fas抗体刺激、抗CD3抗体刺激やγ-ラディエーション照射ではRo52の過剰発現はT細胞のアポトーシスへの感受性を増加させた。さらにRo52の過剰発現下ではカスペース8の活性化フォームがFas抗体刺激後早期から検出された。カスペース8の活性化はカスペースの活性化経路の最も上流に位置するので、これらの成績はRo52がカスペース8の活性化フォームの産生に関与していることを示唆した。そこでFas抗体でFasを免疫沈降させ、その沈降物からのカスペース8の活性化フォームについて検討した。DISC (Death Induced Signal Complex)中のカスペース8が切断された中間フォームはRo52の存在下ではより早期から検出された。即ちRo52はDISCでのカスペース8の活性化に関与していた。以上からRo52/SS-A分子はT細胞のアポトーシス誘導に関与していることが明らかになった。
 Ro52/SS-A を強発現したT細胞はIL-2産生も亢進することからRo52/SS-A を強発現したT細胞は局所に浸潤し、IL-2やIFN-γなどのTh1型サイトカインを産生し、さらにアポトーシスに陥り、Ro52/SS-A抗原が血清中に放出される。また上皮細胞の障害が生じて、MHC class IIの発現を高め、またアポトーシスにより細胞外に出たSS-A/Ro52がCD4T細胞に抗原提示され、最終的にTh2型サイトカインや炎症性サイトカインなどが産生され、自己抗体のSS-A/Ro52抗体が産生されるものと考えられた。
 このようにRo52/SS-A の構造と機能の関係を解析することにより自己免疫病の病態を理解することが可能になり、老化に伴う関節炎・自己免疫疾患の新しい治療法の開発が可能と思われる。

5.β1インテグリン下流シグナル分子Cas-Lの関節リウマチの病態における役割
 ここではリウマチモデルマウスのTax transgenic mouseを用いて脾細胞遊走能、脾臓、リンパ節におけるCas-L発現およびチロシンリン酸化、関節におけるCas-L発現を検討した。関節炎発症前及び関節炎発症後において脾細胞遊走能の亢進、Cas-L蛋白質の発現及びチロシンリン酸化の亢進を認めた。Cas-L蛋白質の発現が亢進した理由として、臓器へのリンパ球浸潤による可能性が考えられたが、関節炎を発症したマウスにおいてCas-LmRNA発現が亢進していたことから、単一細胞レベルでCas-L発現が亢進していたと考えられる。βインテグリンを始めとする接着分子の発現及びT細胞マーカーの発現は炎症の有無に関わりなく変化が認められなかったことからCas-Lの発現亢進が関節炎の発症及び炎症反応の遷延に関与したと考えられる。
 Cas-L蛋白質はβインテグリンからFAKまたはSrc familyチロシンキナーゼよりチロシンリン酸化を受けて下流へシグナルを伝達する。関節炎を発症したマウスではCas-L蛋白質のチロシンリン酸化が認められ、これは主としてSrc familyチロシンキナーゼによりチロシンリン酸化を受けたと考えられた。関節炎症部位におけるCas-L蛋白質発現を検討した結果、浸潤した全ての細胞がCas-L陽性細胞ではなく、むしろ小結節性集簇が認められる部分や関節腔と思われる部位に浸潤した細胞で特にCas-L陽性反応が認められたことから炎症部位への細胞浸潤にCas-Lが重要であると考えられた。
 関節リウマチの滑膜におけるCas-L蛋白質の発現を検討した結果、滑膜に浸潤したCD3陽性T細胞にCas-L蛋白質の発現が認められた。このことから、ヒトおいてもCas-L蛋白質はRAにおいて関節部位への細胞浸潤や炎症の増悪、遷延に関与していると考えられた。今後Cas-L遺伝子アンチセンスの治療効果の検討、また野生型及びドミナントネガティブCas-L遺伝子トランスジェニックマウスやCas-L遺伝子ノックアウトマウスの解析等の更なる検討を行い、RAの病因、病態を解明するのみならず、Cas-L分子に基づく新しい治療法、治療薬の開発等臨床応用を検討する。

年度の研究成果を要約すると次のとおりである。
 コラーゲン関節炎をjunDとTxkの過剰発現は抑制することができた。今後junDやtxk発現の調節がヒトにおいても関節炎の治療に応用できるのかを検討する必要がある。
 RO52/SS-A自己抗原に対する自己抗体はRAやシェーグレン症候群患者血清中に特徴的に同定される。RO52/SS-A抗原はTリンパ球のアポトーシスのシグナル経路の新しい構成成分であり高齢者免疫異常の解明に重要な分子と考えられた。
 マウス胚性幹細胞からBMPを用いて軟骨細胞を分化誘導し軟骨細胞移植を行なった。その結果、膝関節内での移植軟骨細胞の生着と骨形成能が確認できた。今後の軟骨細胞を用いて高齢者関節障害に対する再生医療の検討を行う。
 Cas-LはRAの関節滑膜への炎症細胞の浸潤に重要と考えられた。CasLを介するT細胞のシグナル伝達機構を修飾することでRAの新しい治療薬の開発が可能と考えられた。


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