自然気胸治療ガイドライン作成にあたって

【目的】

  自然気胸の治療は医師の経験や医療機関の基準に基づいて行われているのが現状である。しかしその治療法の選択がEBMに基づいているかどうかは疑問である。現在厚生労働省、学会、研究班から様々な疾患の治療法についてガイドラインを定め、統一した治療と成績の評価を論じ合うために医師や医療従事者・研究者が共有できる情報を得ようとする流れにある。「自然気胸治療ガイドライン」は情報の共有化の一助となるための指針を目指すものである。初回のガイドライン作成のため詳細な取り決めは避け基本的な枠組みだけとした。今後、会員の皆様の意見を取り入れながら詳細なガイドラインを作成する予定である。

 自然気胸の治療はブラ・ブレブの破裂による肺の虚脱状態を改善する事である。

【治療方法】

1.初期治療(特殊病態、外来治療か入院治療かの判断を含む)

2.保存的治療

3.手術治療(胸腔鏡手術か開胸手術か)

  に分けて記載する。


1.初期治療                         

 自然気胸はブラ・ブレブが破裂し胸腔内に空気の貯留した病態で、肺が虚脱した為に胸痛、呼吸困難、咳嗽などの症状が出現する。この状態を改善(肺を再膨張させる)するのが初期治療である。

 再膨張を促す手技として以下の方法がある。

 a)安静

 b)胸腔穿刺(脱気)

 c)胸腔ドレナージ

どの方法を選ぶかは、肺虚脱度と臨床所見により決定する。

 肺虚脱度は、胸部単純X線写真で判断する。日本気胸・嚢胞性肺疾患学会では癒着がない場合には以下の3つに分類している。

 「軽 度」肺尖が鎖骨レベルまたはそれより頭側にある。またはこれに準ずる程度。

 「中等度」軽度と高度の中間程度。

 「高 度」全虚脱またはこれに近いもの。

 肺虚脱が軽度であり呼吸困難などの臨床所見が乏しい場合は経過観察とする。経過観察の目安として胸腔内圧を測定して陰圧であれば“空気漏れ”はないものと考えられ、改善の可能性があり、脱気または安静で経過を観察する。

 肺虚脱が中等度以上であれば、胸腔ドレナージが望ましい。

 体動で呼吸困難がある場合、血液ガス分析または動脈血酸素飽和度が低値の場合は穿刺あるいは胸腔ドレナージが必要である。

  肺虚脱が高度であれば胸腔ドレナージが必要である。

  特殊病態の自然気胸の治療について

  緊張性気胸(縦隔が健側に偏位して吸気相にもその復位がないか、またはcardiorespiratory embarrassment《呼吸困難・血圧低下・頻脈など》を示している場合をいう。)、両側同時気胸、胸水貯留気胸(血胸を含む)は胸腔ドレナージが適応である。高齢者、低肺機能患者、臨床所見が進行状態の患者にも胸腔ドレナージが適応である

 *日本気胸学会用語・規約集(1998年8月)に則って記載した。

 入院治療を選択すべきか外来治療で良いのかの判断について。

 安静・脱気で治療の場合は、危険因子がなければ外来通院で治療可能である。胸腔ドレナージは、一般には入院で治療されるが一方弁を用いての外来治療も可能である。

2.保存的治療

 胸部単純X線写真と臨床所見を総合的に判断し肺虚脱の改善を目的とする治療方法で以下の 3つの治療法が一般的である。

 a)胸腔ドレナージ

 b)胸膜癒着術

 c)気管支鏡下気管支塞栓術


 a)胸腔ドレナージ

  胸腔ドレナージとは胸腔内にチューブを留置して肺虚脱を改善する治療方法である。脱気目的のみであれば8から20Frのチューブが望ましい。しかし胸水貯留例ことに長期間留置が予測される症例ではフィブリンにより閉塞するおそがあり20Fr以上のチューブが望ましい。

 空気漏れが消失し肺の再膨張を胸部単純X線写真で確認できればチューブを抜管する。すなわち深呼吸や咳嗽でも空気漏れが無い事を確認後、半日以上ドレーンをクランプして、胸部単純X線写真で虚脱が無ければ抜管する。可能な場合はさらに半日後に胸部単純X線写真で再虚脱の無いことを確認する。

 b)胸膜癒着術

  癒着剤を胸腔に注入して、胸膜の癒着をはかり気胸再発を防止する。癒着剤としてテトラサイクリン系薬剤、OK-432、自己血、フィブリン糊などがある。一般には肺尖部分を中心に癒着剤が胸腔に広がるように体位変換することが重要である。空気漏れがあるのでクランプはせず、薬液がすぐに排出されないようにチューブを身体より高い位置にする。一般的にはpoor risk例や手術非適応症例に施行する。

 *薬剤の保険適応は認められていないが臨床的に多くの施設でおこなわれている。

 c)気管支鏡下気管支塞栓術

  破裂したブラ・ブレブに通じる責任気管支を塞栓することにより空気漏れを無くす手技。気管支ファイバースコープ下にバルーンカテーテル(Forgaty catheterなど)により、責任気管支を同定し、区域、亜区域気管支に塞栓子を充填する。塞栓物質として、フィブリン糊が一般的であるが、コラーゲン製止血剤も用いられている。一般にはpoor risk例や手術非適応症例に施行する。

 *保険適応にはなっていないが、シリコン製塞栓子も使用され始めた。

3.手術療法

 近年、胸腔鏡下手術法が進歩して、自然気胸は良い適応であり、症例数も増加している。

 全身麻酔での手術適応は、一般には以下の如くである。

  1)再発を繰り返す症例

  2)空気漏れの持続例

  3)両側性気胸

  4)著明な血胸

  5)膨張不全肺

  6)社会的適応

 手術術式は前期「用語・規約集」により以下に分けられる。

 a)ブラ焼灼術(cauterizing

 b)ブラ結紮術(loopingclipping

 c)肺縫縮術

 d)ブラ切除肺縫縮術

 e)肺部分切除術

 f)肺区域切除術

 g)肺葉切除術  

 h)壁側胸膜切除術  

 *h)は追加処置であり、擦過術、掻爬術も含まれる。

 胸腔鏡下手術か、開胸手術(腋窩切開、後側方切開)の選択は、術後再発率、医療経済面などから十分なinformed consentを得て決定するのが望ましい。最近は胸腔鏡下手術も機器の進歩により安全かつ容易に施行されるようになってきている。初発の自然気胸例でもrisk factorが無く、明らかな責任嚢胞が認められる場合はその適応としても良い。

 局所麻酔下胸腔鏡手術についてはこれまでいくつかの施設で実施され、全身麻酔の手術に比べ制限があるが今後検討すべき方法である。

 a)ブラ焼灼術(cauterizing

 b)ブラ結紮術(loopingclipping

 c)肺部分切除術

 d)嚢胞内フィブリン糊充填術

 e)その他(レーザー、電気凝固)

【おわりに】

  自然気胸の初期治療と内科的、保存的治療と外科による手術療法について情報の共有化の一助となるための指針を作成した。今後、会員の皆様の意見を取り入れながら詳細なガイドラインを作成する予定である。


自然気胸治療ガイドライン編集委員会

委員長:本田 哲史

委 員:大森 一光

    田中  健彦

    栗原  正利

    渡部  和巨